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第1巻 刑事編   編集 今井秀智
目次
第1章 刑法関係  >>目次詳細へ
 1.公務執行妨害・傷害被告事件(荻原統一)
 2.強制わいせつ被告事件(森井利和)
 3.強姦致傷・殺人被告事件(吾郷計宜)
 4.強制わいせつ致傷被告事件(臼井 満)
 5.土地改良法違反(贈収賄) 被告事件(木山義朗)
 6.殺人・現住建造物放火被告事件(杉谷義文)
 7.殺人(既遂) 被告事件(今井秀智)
 8.傷害被告事件(泉谷恭史)
 9.傷害致死被告事件(大塚喜一)
11.業務上過失致死事件(寺井一弘、桑原育朗)
12.窃盗保護事件(少年事件) (外塚 功)
13.窃盗被告事件(中村亀雄)
14.恐喝被告事件(古本栄一)
第2章 交通・特別法関係  >>目次詳細へ
 1.道路交通法違反(速度違反) 被告事件(水谷賢)
 2.業務上過失致死、道路交通法違反被告事件(新田義和、松永克彦)
 3.覚せい剤取締法違反被告事件(松田幸子)
 4.覚せい剤取締法違反被告事件(石塚英一)
 5.覚せい剤取締法違反被告事件(阿波連光)
 6.麻薬及び向精神薬取締法違反、関税法違反被告事件(込田晶代)
 7.大麻取締法違反被告事件(石部奈々子)
 8.大麻取締法違反、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件(船越豊)
 9.暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件(若松芳也)
10.暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件(由良登信)
11.出入国管理及び難民認定法違反被告事件(高野隆)
12.公職選挙法違反被告事件(平田友三)
13.所得税法違反被告事件(加藤高志)
14.商法・特別背任罪被告事件(岩下嘉之)


編集にあたって
 我が国の刑事裁判における有罪率は99パーセントを超えている。この有罪率は、精密司法の結果であるとされているが、その99パーセントの事件の中には、的確かつ十分な反証活動がなされなかったために有罪になったものもなかったとは言えないであろう。弁護活動のうち、手続適正化のための弁護活動については、これまでいろいろ研究・実践されその成果の共有化もそれなりに図られてきている。しかし、個々の事件において検察側の主張、証拠構造の矛盾、欠陥、弱点を的確に把握し、それに対し有効な反証をする活動については、当該弁護人の能力、熱意に任されてきており、その経験、成果の共有化は必ずしも十分になされてはいない。

 一方、現在進められている司法改革により、弁護士数の飛躍的な増大とともに、裁判員制度、被疑者段階からの公的弁護制度等の導入が予定されているが、これらの新制度下においては、弁護人の能力によって起訴・不起訴あるいは有罪・無罪が左右される余地が今よりはるかに大きくなるものと思われる。刑事司法が有効に機能し、国民の信頼を得るためには、全国どこでも、弁護人がだれでも、的確かつ十分な弁護活動が行われる体制になっていなければならない。その意味で、弁護の質的向上、均質化は社会の強い要請であり、弁護士会にとって喫緊の課題であると言わねばならない。

 そのような状況の中で本シリーズが発刊の運びとなったことは誠に時宜にかなっていると言えよう。本シリーズは、判例・学説の解説・解釈を行おうとするものではなく、なまの刑事事件あるいは民事事件を適切、妥当に解決するためには、弁護士はどのような点に着目し、どのような活動をするべきかという点に力点を置いたものであり、その実践的ノウハウを共有化しようとするものである。本巻は、その刑事篇であり、T事例の概要、U受任の経緯、V弁護方針を策定するに当たって考慮した事項、着眼点、W実際の弁護活動及びその効果、X判決内容・結果という構成になっている。その中で、V及びWが本巻の核心であり、無罪判決を得た各弁護人が、どういう点に着目して無罪主張をすることにしたのか、その上で弁護側の主張をどのように構成しその立証のためにどのような活動をしたのかが、実例に則し具体的に記載されている。よく事件は生き物でその個性は千差万別であると言われるが、子細に検討すれば、無罪になる事件は、証拠構造等に共通の問題点・弱点を含んでいる場合が多い。本書を熟読玩味していただけば、検察側証拠を見るとき、どのような点に着眼すればその問題点、弱点を把握することができるかということを理解していただけるものと思う。

 弁護人の反証活動が常に適切に行われるようになることは、被疑者・被告人の正当な利益にかなうだけではなく、捜査側を基本に忠実な捜査に導くことにもなり、ひいては刑事司法に携わる法曹全体に対する国民の信頼を醸成することにもなろう。本書がその一助になれば誠に幸甚である。
2002年2月20日  
高井康行