月刊警察2008.3月号

警察官のための憲法講義

警察大学校警察政策研究センター所長 田村正博
憲法に関しては、学問的なものはもとより、警察実務家を主な読者とする著作が既に相当数存在している。警察実務家を念頭に置いた憲法の逐条解説書や、主な論点・判例を解説したものもある。しかし、それらの多くは、これまでの憲法教科書の一般的な体系を前提とした上で、警察実務の観点を付加したものにすぎず、警察官に求められる憲法知識・理解、言い換えると「警察官の実際の仕事に役立つ憲法を明らかにする」という観点から作られたものとはいえなかった。
筆者は、これまで「警察行政法」についていくつかの著作を明らかにしてきたが、その基本となるのは憲法の考え方である。そこで警察行政法につながる憲法の考え方と、警察実務に影響を与える憲法規定を中心に、「警察官のための憲法」を解説することとした。警察と憲法の関係、基本的人権総論、刑事手続上の人権、自由権的基本権、個人の尊厳と平等権、その他の基本的人権、権力分立(裁判所の独立、地方自治を含む)、国法の体系といった各項目について、記述することを予定している。
本連載では、既存の憲法教科書の体系にとらわれることなく、警察官にとって意味のあることだけを、できるだけ分かりやすく、述べるように努めていきたい。

警察行政法入門

警察大学校警察政策研究センター主任教授 那須 修
「警察行政法」と一口でいっても、その内容や、さらには、そもそもなぜ、これを学ばなければならないかということについて、イメージが湧かない人もいるかもしれない。
そこで、こうした疑問に答えるために、警察も行政機関の一つであるところ、まず始めに、「行政法」において理解すべき基本的な論点について考察した上で、「警察行政法」の概要及び意義等について簡潔に述べてみることとしたい。

警察官のための実務刑法講義

明治学院大学大学院法務職研究科教授 元東京高等検察庁検事 渡辺咲子
この講座では、刑法を基礎から学ぶことにします。大学などで学ぶ「刑法学」は、必要な事実だけが与えられて、犯罪とは何かを分析していく、上から掘り下げていく刑法です。ところが、警察官が「犯罪ではないか」と思われる事実に直面したとき、事実は曖昧で混沌としています。その段階でまず、それがどのような犯罪に当たるのだろうかを考え、判断に必要な事実を選び出し、次に、これに加えてどのような事実を明らかにすれば、事件がどのような犯罪に当たるかどうかを判断できるかを考えなければなりません。しかも、「犯罪」にかかわりのない事実を追及することは避けるべきです。このような的確な捜査を行うのに必要な刑法は、「刑法学」とは逆に、下から積み上げていく刑法だということになります。

実務のための捜査手続法ノート

慶應義塾大学大学院法務研究科・法学部教授 安冨 潔
昨今の治安情勢の悪化や犯罪態様の変化は、犯罪捜査に多くの困難をもたらしています。また、取調べの可視化や犯罪被害者の保護など、さまざまな新しい課題も提起されています。
このような大きな変革が求められている時代にあって、「公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障とを全うしつつ、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的」とする刑事訴訟法が犯罪捜査においてどのように解釈運用されるべきでしょうか。
これから「実務のための捜査手続法ノート」を連載することになりました。ここでは、一般的な刑事訴訟法の教科書の体系とは異なり、実務的に取扱いの多いと思われる重要な項目を重点的に取り上げて、できるだけ分かりやすく読者のみなさんの日頃の研鑽に資するように解説したいと考えています。
そこで、連載にあたっては、まず、逮捕、捜索・差押、検証といった強制処分からはじめ、被疑者・参考人の取調べ、実況見分など任意処分について検討していきたいと思います。
第1回は、令状なく行いうる現行犯逮捕の問題を取り上げ、適切な判断と適正な手続を履践できるように学んでいただければと思います。