月刊警察 2016年 9月号 MONTHLY KEYWORDS
月刊警察

情弱ビジネス

近年の急激なIT化に伴い,デジタル技術や通信媒体を利用できる者とそうでない者との間に,情報格差が生じるようになった。そこで初心者を含め,パソコン操作やインターネットの利用などが苦手な「情報弱者」と呼ばれる人々をターゲットにしたビジネスが増加している。

サービスの多くは使用方法を教えたり,操作を代行したりする業態で,パソコンやスマートフォンの初期設定やアプリケーションのインストール,メール・SNS・各種ウェブサービスのアカウント作成といった基本的な内容を有料で行っている。

実際には一般消費者が独力で解決できる内容がほとんどで,高度な知識や専門技能を要するサービスではないため,皮肉を込めて揶揄されることも少なくない。IT関連以外でも,投資における情報商材の販売など,知識がない消費者の足元をみる商法を広く「情弱ビジネス」と呼ぶ場合がある。

チェクジット

“China”と“exit”を組み合わせた造語で,「南シナ海からの中国追放」を意味する。欧州連合からのイギリスの離脱を表した造語“Brexit”をもじったものとされる。

豊富な天然資源が眠る南シナ海で,ほぼ全域での管轄権を主張する中国に対し,フィリピンは3年前から仲裁裁判を申し立ててきた。これを受け,国連海洋法条約に基づく常設仲裁裁判所が今年7月,「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」と中国側の主張を否定。TwitterなどのSNSサイトにハッシュタグ#CHexitを付けた投稿が急増した。

しかしその後,中国政府が仲裁裁判所による判断を違法だとして受け入れないという声明を発表し,スカボロー礁付近においてフィリピン漁船の追い出しを継続。また,7月末に開催のASEAN外相会議に向けて事前外交を展開し,議長国ラオスや経済支援を行うカンボジアからの支持を取り付けていたことも判明した。

その結果,フィリピンやベトナムが主張した,仲裁裁判の判決を尊重するASEANの共同声明はかなわず,中国の海洋進出に釘を刺す有効な手立てを失う形に。こうした経緯から,フィリピン国内では中国撤退を求める声が一層強まり,ベトナムでも中部の都市ダナンで中国人客の入店を拒む注意書きを張り出す飲食店が出現するまでに発展。

日本では,8月2日の閣議で報告された2016年版の防衛白書に「中国が東シナ海や南シナ海で高圧的な対応を続け,海洋進出の既成事実化を着実に進めている」との記述が盛り込まれ,安全保障環境への影響が懸念されている。