編集にあたって
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1 変動する社会における法の実現と弁護士の役割
2002年の現在、我が国は、第二次世界大戦後ほぼ右肩上がりで推移してきた経済成長がバブルの崩壊に伴って頓挫し、10年にわたる不況と出口の見えない深刻なデフレのただ中にある。この間、科学技術の高度化とその市民生活への浸透、地方から都市への大量の人口移動、日本の経済・社会の行動標準と国際標準(グローバル・スタンダード)ないしアメリカン・スタンダードとの乖離の顕在化など著しい社会変動の生起をみた。
このような社会変動は、必然的に、市民生活のあらゆる場面で利害の対立と紛争の発生とを呼び起こし、その結果、我々は、様々な問題についての利害の調整と紛争の解決とを迫られることになった。そして、弁護士は、鋭く対立し又は錯綜する利益状況の中に身を置き、紛争を解決する又は紛争防止の装置を工夫する過程を通して、法の実現を目指すことになる。しかも、国家権力を背景にすることなく。
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2 弁護士の継続教育の必要
法律関係が複雑・多様化し、高度化した現代社会において法の実現の一翼を担う弁護士に、たゆまぬ研鑽の要があることは多言を要しない。しかし、現状は、司法研修所を卒業して登録をした弁護士に対するシステマティックな継続教育はほとんど存在せず、入所した法律事務所における先輩からのOJTという差異の大きい個別的訓練に依存しているといってよい。
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本シリーズは、このような現状を踏まえ、弁護士の継続教育の一端を担うことを意図して企画されたものであり、紙上で、法律問題を調査・議論して解明し、事実問題を探求し、解決のための最良の方策を考案するといった「共同作業」をしようとするものである。
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3 第2巻のねらい
本シリーズのうち第2巻ないし第5巻は、複雑化・高度化した現在の我が国に存する民事法律問題のうち、弁護士が頻繁にぶつかるものを事例として類型化して取り上げている。そして、本巻は、毎日、我が国の津々浦々で、繰り返されている紛争を取り上げ、法律問題のファンダメンタルズを解説し、それを前提にして押さえておくべき事実問題のポイントを指摘し、紛争解決の方法ないし手順を示そうとしている。
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弁護士になって初めてここに取り上げられている紛争の解決に関与することになったときは、少なくとも1回は該当する事例の解説全体を通読し、その上で自分の直面している問題点に関する記述部分を深く研究していただきたい。問題に直面しての考えるヒント、紛争解決のための筋道や方法を得ることができるであろう。
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4 おわりに
以上のとおり、本巻は、当該法律問題を初めて実際に取り扱おうとする弁護士を読者として想定している。各論稿は、項目として基本的なものを取り上げているが、その内容としては初歩的なものに終始しているわけではなく、多くの弁護士が漠然とした疑問を感じながらそのままにしている問題点にまで及んでおり、経験を積んだ弁護士の使用にも耐えるものでありたいと願っている。また、学生、司法修習生、近く生まれるであろうロー・スクールの学生諸君のゼミ教材等として有用であり、かつ、わずかでも学界における議論の深化に寄与することができれば、編著者としてこれに勝る喜びはない。 |
2002年2月20日
田中 豊 |