月刊警察2009.7月号
「おまえは俺に似て、嘘が下手だ」。『重力ピエロ』(伊坂幸太郎・著)の中に出てくるワンフレーズです。ここでいう「俺」が父で、「おまえ」が息子になるのですが、実はこの親子に血縁関係はありません。「俺」の妻は、一子をもうけたあと、強姦に遭い、生まれてきたのが「おまえ」でした。「俺」とその妻は、重力を超えたところで結ばれていたかのように、望まれることが難しい第二子の出産を決めました。様々な出来事を家族で乗り越え、「俺」の死期が迫る時、発せられたのがこのフレーズでした。泥の中から鮮やかに咲き誇る蓮のようなこの言葉に触れ、何かを洗い流すかのように涙が溢れてきました。
「俺」が「おまえ」を認めることができたのは、ひとつに、自分のことで汲々として一生を終えるのではなく、運命ともいうべきいろいろな事象をまずは受け入れる覚悟があったからではないでしょうか。すなわち、それは「ゆとり」を持って、極力他者にかかわって生きていくことを決めていたのだと思います。そこに「絶対的な優しさ」にも似た感情が芽生えていったのでしょう。
今号の「警察官の妻たち」で紹介されている「妻」は、どうしようもなく辛い子どもの死を受け入れ乗り越えて、いまは「ハハハ…」と笑っています。この「ハハハ…」に、前のフレーズが重なって、胸が熱くなりました。必読だと思います。どうぞご覧ください。
(Nぽん)