月刊警察2011.10月号
久々に帰省した折,父が最近乗り換えたという新車に触れることができました。
「〜に先立って」という意味のラテン語を冠したその車は,バッテリー走行とエンジン走行を状況に応じて判別し選択する機構をもつ,“走る精密機械”。私に大きな衝撃を与えたのでした。
最も驚いたのは,鍵穴がなく,ボタンでエンジンを始動させること。長らく,鍵穴にキーを差し込んでドアを開け,エンジンに点火し,その躍動が五感に伝わるマニュアルミッションを操ることに喜びを感じていた私にとって,それは全くの想定外でした。こうした先進システムは便利である反面,どこまで進化していくのだろうと,言いようのない戸惑いを感じたのが正直なところです。
IT機器の普及によって,漢字が書けなくなり,手紙を書かなくなり,辞書を引かなくなった自分が,ここにいます。便利さを追求するあまり,それと引換えに失われていくものがありますが,失ってはならないものもあるはず――。車の安全・快適装備も確かに便利ですが,認知・判断・操作をする生身の人間力が低下してしまうようでは,本末転倒です。
人間力を頼りにする仕事といえば,警察官がその最たるもの。誇りや熱き心に突き動かされる使命感は何ものにも代え難く,決して失ってはならないものです。
私も仕事に「先立って」,人間力を高めていかなければなと感じています。
(S)