交通事故は,永らく,意図しないにもかかわらず起こしてしまう,いわゆる過失犯として扱われてきたが,飲酒や高速度走行による制御不能などの悲惨な事件が起こったことにより,平成13年に刑法が改正され,従来の過失犯より重い危険運転致死傷罪が適用されるようになった。危険運転については,その適用の可否が非常に難しいのが現状である。裁判員制度の採用によって,最近の司法の判断の結果は,従来の判例に照らして,より重い刑罰が科せられる傾向がみられる。つまり,一般の人たちがより重い刑を望んでいるとみることができる。
日本では,交通事故鑑定に対して公的な機関による認定制度がないため,自称鑑定人が多数存在している。鑑定というと,一般には,公明正大で,客観的な証拠から鑑定してくれるものと信じられているが,疑問に感じる鑑定書も少なくない。
社会正義に照らし,公明正大な鑑定でなくてはならないし,司法の判断も公明正大とは言えない鑑定に真実がゆがめられ正しい判断を見失うことがあってはならない。
司法が正しく判断できるためには,警察の適正な捜査が不可欠である。警察の適正な捜査に基づいて,検察が起訴し,司法が真実を見極めて,適正な処罰を下すことが期待されている。
本書は,交通事故事件の真実をいかに明らかにするかを理解していただくために,著者がこれまでに鑑定した事故事件の事例について,事故事件の発生,警察の捜査,検察の起訴,司法の判断の順に分かりやすく記載した。この中には,被告人及び弁護側の主張についても記載した。
本書の構成は,歩行者事故,二輪車対四輪車の事故,四輪車同士の事故,自転車事故,ひき逃げ事件,タイヤバースト事故,その他の事故として,分かりやすく区分した。
平成25年1月
山崎 俊一