地域の魅力を語るストーリーを、国が認定する新たな制度=「日本遺産」
平成27年4月、文化庁が「日本遺産第1号」に認定した18ストーリーを完全網羅した国内初の書籍が、いよいよ発刊となりました。
18地域の歴史的経緯や地域の伝統・風習に根ざし、世代を超えて受け継がれている「物語」を、見開きの大きな写真を交えながら紹介。最大の見所となる「絶対行きたい!感じたい!構成文化財5選」を取り上げ、日本遺産にふさわしい魅力をクローズアップ。
読者を「時をつなぐ歴史旅」に誘います。
奥深い、ワクワク感があふれます。
普通のガイドブックとは一味違う、読んで楽しめ、旅先でも使える、大人のガイドブックです。
文化庁日本遺産審査委員会委員長
筑波大学大学院世界遺産専攻教授
稲葉 信子
文化庁による「日本遺産」の認定が始まった。これまで日本には、文化財保護法による国宝や特別史跡など、高い歴史的・芸術的価値に基づく文化財指定の制度があって日本文化の確実な保存に貢献してきた。日本遺産の認定は、同じ文化庁の仕事であるが、それらとは異なる新しい視点に基づいている。
日本遺産という名称は、世界遺産を連想させる。しかし具体的な中身はこれとも大きく異なっている。それでは日本遺産とは何なのか。
日本遺産は、祭りなど無形の文化財も含めて地域に点在している文化財の組み合わせで認定されるが、重要なのはそうした個別の文化財を連携して、語られる地域固有のものがたり、すなわちストーリーである。そしてこれに加えて、そのストーリーを質の高い文化観光・地域振興に有効に結び付けていく、具体的な計画である。
2015 年4月24日最初の日本遺産18 件、そして2016 年4月25日、2 回目の認定19 件が発表された。東京オリンピックが開催される2020 年までに100 件ほどの認定を目指している。認定された日本遺産でまず気がつくのはそのユニークなタイトルである。「日本一危ない」、「かかあ天下」など人目を引く言葉がタイトルに並ぶ。国宝や世界遺産では、こうはいかない。そう、日本遺産には、他ではできない遊び心が許されている。
ただしストーリーが重要であるからといって、みせかけだけのテーマパークの広域版だけにはなってほしくない。地域に残る本物である文化財をつないで、訪れる人がやさしく理解できて、そして「さすがだね」と思って楽しんでもらえる仕掛けが重要である。見るもの、そしてそこで聞くストーリーが本物であることが、日本遺産ブランドを今後も支えていく。
海外からの訪問者にとっては、日本の歴史の基本を理解する旅となり、そして日本の人にとっては、ああそれも日本の歴史であったと再発見の旅となる。そんなストーリーを探している。
日本遺産という、今までになくて、そしてこれからその完成形を目指す文化観光の仕掛けにおいて、認定時にパーフェクトであるものはない。日本遺産には、地域の資源を有効に活用する地域活性化・観光の国際的なベストモデルとなってほしいと思っている。スポーツでいうなら、いわば強化選手である。訪れる人の声も聴きながら、これからどのように育てていくか、どんな仕掛けをプロデュースするか、チャレンジは始まったところである。