警察庁から委託を受け被災三県の警察職員など延べ約15,000人の惨事ストレス調査・カウンセリングを行った著者による、分かりやすい「メンタルヘルス」「惨事ストレス」についての実務的入門書。惨事ストレスから部下を守るために組織として出来ること、日頃のメンタルヘルス対策など、具体事例・調査データを提示して解説する「心のケア」のノウハウ。遅発性PTSDの発症が懸念されるいま、さらに部下職員の日頃のメンタルヘルス対策のため、幹部職員にとって必読の内容。付録に10種類のストレスがチェックできる「THQカード」が付いている。
2011年3月11日に発生した東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故による放射能汚染は、多くの人々が犠牲となり、計り知れない悲しみと苦しみをもたらしました。
1年以上が経過して、いまだに行方不明の方がいる状況にあり、現在も深刻な被害を与えています。被災された方々の心身両面にわたる被害も言葉で表せないほど甚大です。
また、被災の支援に尽力をされた方々の心にも多くの爪痕を残しています。町は次第に復興に向かっていますが、今なお、体や心の傷に苦しんでいる人も少なくありません。
私どもは東日本大震災以降、すぐに第一線で働く人々の「心のケア」を実施させていただきました。未曽有の大惨事にもかかわらず、多くの支援者が破局的なストレス状態にもくじけず、安全と健康を守るために、危機に命を懸けてその使命を全うされていました。
避難誘導中に最後まで責任を遂行し、津波に立ち向かった人々。ライフラインがない中で、雪すさぶ泥水の中に入り困難な支援活動をした皆様。「私たちは人間である前に、女性である前に支援者です。」と言って困難な活動に向かっていった人々。糖尿病、高血圧で治療中の薬がないにもかかわらず陣頭指揮を執ったリーダーたち。水素爆発に恐怖感を抱きつつ、20キロメートル圏内の放射能に立ち向かった支援者。家族の死を隠し、住民の支援業務に邁進した女性社員や職員の皆様。
被災地で活躍した「地上の星」は、テレビや新聞で報道されることなく、命懸けの支援を吹聴することなく「黙して語らぬ方々」でした。その姿に、ただただ平伏するだけでした。威厳のある人々も目頭を熱くし、こみあげる悲しみに耐えながらの面接でした。帰る時は毅然と頼もしい表情で去って行きました。
カウンセラーも涙ながらに多くの話を共有させていただきました。微力な心のケアしかできなかったことをお詫びしつつ、被災地で働く人々と、その支援をした組織と関係者の皆様の崇高な品格と使命感に、心より敬意を表して報告とさせていただきたいと思います。
被災された方々に心よりお見舞いを申し上げながら、一日も早く傷が癒えることを祈念しております。
平成24年6月
佐藤 隆