シティプロモーションは価値を創造するものだと考えている。単なる「まちの売り込み」ではない。そのような思いを持って、全国の多くの市町村を訪れてきた。
村役場、市役所、県庁の担当者、市議会議員、NPOの理事・会員、企業の広報担当者、町の喫茶店でコーヒーを飲む市民。多くの人々に話をうかがってきた。地域に対する思いはさまざまである。地域のためにという言葉を口にする方もいる。そうした言葉とは無縁な人も少なくない。
人はどこかで生きていくことになる。どこかで暮らしていくことになる。その「どこか」は、一つの地域とは限らない。人は地域を選ぶこともできる、シティプロモーションとはそうした視点に立った考え方だ。住むだけではなく、訪れる、買う、支える。人は地域を創ることもできる。シティプロモーションにそうした視点を導きながら考えていきたい。
こうした問題意識を鍵に本書は執筆された。読者の皆さんが同じ問題意識を持って読み進められるように、多様な事例を用意したつもりだ。しかし、本書は事例集ではない。特に先進事例と呼ばれるものを集めた一覧にしないことを心がけた。
シティプロモーションという「考え方」を提示することを心がけた。当たり障りのない概論ではなく、筆者として考える成功要素を挙げ、評価の方法についても詳細に述べたつもりである。読者の皆さんの批判を待ちたい。
そのうえで、提示した多くの事例は逆転をかけた事例である。いまだ「成功」しているわけではない。筆者である私がそうであったように、読者の皆さんも「伴走者」として立ち会う気持ちで読んでいただければと思う。
本書の出版にあたっては、多くの人々のご理解とご協力を得た。取材をさせていただいた多くの地域の皆さん、日本広報学会、モバイル社会研究所、独立行政法人防災科学技術研究所、東海大学文明研究所など、研究の支援を行っていただいた人々に、この場を借りてお礼申し上げたい。
東海大学文学部広報メディア学科の河井ゼミナールの学生たちとの議論が、本書の大きな要素となった。改めて感謝する。特に落合智子、高宮舞、杉本莉香の三氏による「津のこと」についての考察及び佐藤麻美、横内良平の両氏が調査した地域キャラクターの状況は、本書を執筆する上で活用させていただいた。
最後になったが、本書の出版の機会をいただいた東京法令出版株式会社、並びに編集の労をとっていただき、筆者に真摯なご指摘、ご提案をいただいた同社企画開発部の福岡隆昭氏には心よりお礼申し上げる。
本書がいささかでも読者に満足を与えられるのであれば、その功は福岡氏にあると考える。
本書により、シティプロモーションの理解が深まり、さらなる研究や実践が進展することがあるならば幸いである。
平成21年12月
河井 孝仁