警察官のための漢字教材の決定版!
本書は、警察職員のための漢字教材です。
特に、「実務に直結する」「書き」を重視した漢字教材です。
現代において漢字を習得する意義は、端末を使用して文書を作成する際、適正な〈変換〉ができるようにすることでしょう。よって、複雑な漢字を手書きできるようにする重要性は薄れてきています。そのことは無論、編者らも認識しています。
それでも編者らがこの時代、漢字の「書き」を重視した理由は、3つあります。
第1に、いまだ警察職員が漢字を手書きするシーンは、必ずしも少なくないこと。
捜査書類を手書きすべき状況もあるでしょうし、様々な書式を手書きで埋めるべき状況もあるでしょう。供述、指示、伝達内容、通話の概要等をメモ書きすべき状況もあるでしょう。はたまた、身上に関する各種書類を手書きすべき状況もあるでしょう。いささか日常的な例では、信書や挨拶状をしたためる、その宛名を書く、他の役所に行って何らかの申請書面を書く、といった機会もあり得ます。このように、警察職員が直面する様々なシーンを想起したとき、「書き」の重要性は、いまだ無視できるものではありません。
第2に、「書き」の効用は手書きだけではないこと。
それは無論〈変換〉にも役立ちますが、そもそもある漢字が書ける人は、絶対にその漢字の〈読み〉ができる人です。また漢字は表意文字ゆえ、ある漢字が書ける人は、その言葉の意味を正しく〈理解〉できる人です。よって〈語彙〉の豊富な人です。それは、必ずその人の〈理解力〉〈表現力〉〈コミュニケーション能力〉につながってゆきます。何故と言って、それらは語彙に限定されてしまうからです。ある言葉を知らなければ、それについての思考は、絶対にできません。
例えば、フランス語には蝶と蛾の区別がありませんから、フランス人は「蛾」についての思考ができません。それが何なのかも分かりません。このように、言葉があること/言葉を知っていることそのものが、私達の思考を決定付け、ゆえに私達の〈理解力〉〈表現力〉〈コミュニケーション能力〉を決定付けるのです。
日本人について言い換えれば、漢字があること/漢字を知っていることそのものが、私達の、上述のような人間力を高めるのです。すなわち漢字は、実戦的なツールです。
第3に、「書き」の訓練を積むことで、刑法・刑事訴訟法・行政法といった基礎法学、あるいは警務・総務・生活安全・地域・刑事・交通・警備といった専門分野の、直ちに理解することが困難な〈専門用語〉に触れ、それに慣れてゆくことができること。
重ねて、言葉を知らなければ思考はできません。しかし、警察職員が知っておくべき専門用語は極めて多岐にわたり、しかも意味内容が難解です。時に「読み」すら難解です。であるのなら、漢字の訓練と同時に、そうした専門用語の訓練をもしてしまうのが効率的で効果的です。書ければ読める。読めれば意味は分かる。もしその詳細が分からなければ、それはより深い〈学習のきっかけ〉になります。知りたい、という人間の本質的な欲求につながります。
そうした訓練により、自然に、警察職員としての〈語彙〉〈理解力〉〈表現力〉〈コミュニケーション能力〉を涵養してゆくのなら、〈実務にも昇任試験にも役立つ〉〈常識ある社会人・常識ある公務員としても役立つ〉。本書が目指したのはそこです。
そのような方針から、本書の編著に当たっては、警察白書その他の基礎的な公刊物、あるいは基礎法学に係る基本書・概説書等から、①日々の勤務においても昇任試験対策においても役立つ〈実務用語を厳選する〉とともに、過去の漢字教材を精査して、単に一般常識として役立つ用語でなく、②実務に直面する社会人・公務員として役立つであろう〈日々触れる用語を厳選する〉ことで、訓練教材としての実戦性を重視しました。
本書の二部構成は、その①②の反映です。
また各用語の重要性・専門性の違いを精査し、より専門的なものから訓練することも、より日常的なものから訓練することも、あるいは、その両方を適宜摘まみ食いすることもできるように編んであります。教材の使用目的・使用スタイル等が様々だからです。
加えて、より実戦的な訓練を指向し、敢えて内容別・分野別等の整理は行わず、極めてランダムに、あらゆる分野、あらゆる領域、あらゆる場面における用語が不規則に出現するよう編みました。規則性を持たせると、類推できてしまうからです。
さらに、重要と認められる用語にあっては、敢えて繰り返しを恐れず、何度も出現するよう編んであります。記憶の定着のため、反復して訓練すべきだからです。
本書は、そのように実戦性を重視した教材ですので、ある漢字が「常用漢字かどうか?」にはこだわっていません。たとえ常用漢字でなくとも、上の①②に該当すると認められるものは、その難易度や使用頻度を入念に検討した上で、書けるべきもの/読めるべきものとして訓練の対象としました。実務は、常用漢字表のためにあるわけではないからです。また、厳密な公用文表記の訓練なら、違う方法で行うべきだからです。
漢字のための漢字でなく。一般教養のための漢字でなく。
実務のための、実戦的な漢字に係る訓練をする。それで実務能力と人間力を高める。
そのような本書の試みが、何らかの形で実を結べば、それに過ぎた喜びはありません。
令和3年2月
編 者