
本書は、事例を基に救急現場の法律問題を整理・体系化することを目指して執筆しました。
私自身の救急法律問題の研究も事例を通して行ってきました。
私は2006年10月に弁護士になってから現在に至るまで、労働法分野(使用者側)を主に取り扱ってきました。東京の安西法律事務所に勤務していた2015年3月、ある消防局で『消防における安全衛生管理と安全配慮義務』と題して講演する機会を得ました。その際の検討資料を基に、2016年4月から『月刊消防』(東京法令出版)にて消防の安全をテーマに合計24回の連載を行いました。
消防の安全に関する連載を続ける中で、複数の消防学校から講義の依頼を受けるようになりました。講義に際して隊員の方々から寄せられる質問では、警防活動よりも救急活動における質問のほうが多く、また、救急活動には様々な法律上の論点があることに気づきました。
そこで、前連載に引き続き、『月刊消防』にて救急法律問題をテーマに連載を始めました。
2018年6月から2020年1月までは『判例から考える救急活動』と題して20回の連載を行い、2020年2月からは『設例から考える救急現場の法律実務』と題して、現在も連載を行っています。
救急法律問題に関する連載を続ける中で、神戸市消防局法令研究部顧問であられた故丸山富夫先生の後任として、救急救命九州研修所で、指導救命士養成研修や救急救命士研修課程の講義を担当する機会も得るようになりました。九州研修所の講義では、隊員の方々から寄せられる質問に検討を加えて回答するという、故丸山先生のスタイルを引き継ぎました。九州研修所をはじめとする各地での講義に際して隊員の方々から寄せられる質問を通じて、救急活動における法律上の論点に気づき、それを検討するという形で救急法律問題を研究し、現在に至ります。
本書では、日々の現場活動に忙しく、なかなかまとまった時間をとれない隊員の方々にも読みやすいように、一事例ごとに完結する読み切り型とし、検討結果を明快に示すように心がけました。様々なテーマの中から気になる事例の解説をお読みいただけます。発展・補足内容はコラムという形で記述していますので、ぜひ併せてご一読ください。また、まだ十分に議論がなされていない論点についても、消防本部やメディカルコントロール協議会などでの議論の材料になればと考え、積極的に私見を提示しています。
本書は、『月刊消防』での連載をブラッシュアップしたものが基礎になっていますが、再検討した際に、最新の議論の状況なども踏まえて、加筆修正を施しています。また、昨今、職場環境で問題となっている、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントについても、それぞれ、複数の事例を取り上げて検討しています。
本書が現場で待ったなしの判断を求められる隊員の方々の一助となれば望外の幸せです。
最後に、弁護士としての職務への取り組み方を教えてくださり、また、消防分野の研究のきっかけとなる機会や静岡の地で弁護士業を営む礎を与えてくださった、恩師安西愈先生には、この機会に、これまでに賜った御恩に心より御礼を申し上げます。
令和7年11月
近郊の静かな事務所執務室にて
山岸 功宗



