
変化する薬物犯罪に、実務で使える判断力を!
大麻事犯をはじめ、薬物犯罪の手口は急速に変化しています。本書は、薬物犯罪捜査における擬律判断、捜査手続、証拠収集の留意点を、具体的な事例や裁判例を交えて解説する実務書です。「問題の所在」「設例」「問と解答」による構成で、現場で迷いやすい論点を分かりやすく整理しています。警察関係者をはじめ、検察・法曹界関係者にも有用な一冊です。
我が国において、薬物犯罪の撲滅は難しく、全体としては減少傾向にあるものの大麻の濫用などは増加傾向にあり、今後も予断を許さない状況にある。しかしながら、違法薬物の蔓延に関していえば、他国と比較した場合、我が国は極めて実害の少ない国や地域の一つと言ってよいと思われる。
以前、筆者のところに、スウェーデンのジャーナリストが、我が国における薬物犯罪の発生率の低さが驚異的であるとして、その理由を求めて取材に来たことがあった。同人の説明では、スウェーデンは、高福祉による安全で平和な国のように思われているかもしれないが、現在では、銃器犯罪や薬物犯罪が多発し、決して自慢できるような国ではないとの話であった。それが真実かどうかはともかくとしても、我が国の薬物犯罪の発生率は、他国よりは相当に低いものと評価されてよいであろう。
そこで、その際、その理由を聞かれたのであるが、たしかに我が国の国民性として、薬物依存への嫌悪感や社会的な非難が大きく、社会からの監視があるため、一般人が薬物に手を染める危険性が低いということはあると思われたものの、それだけではないであろう。
やはり、薬物犯罪の取締りが適切かつ的確に行われており、それが薬物犯罪の発生の抑止につながっているものと思われる。具体的には、警察庁や各都道府県警の薬物対策課や、厚生労働省の麻薬取締部が、昼夜を問わず、薬物の取締り、摘発、検挙、更には、逮捕等の強制捜査に尽力してくれているからであると思われる。
特に、危険ドラッグが広がり始めた時、これは国家的な危機であるとして、速やかに対応し、その蔓延を防止するための必要な立入調査などを実施して、その撲滅を図った警察の薬物対策課や厚生労働省の麻薬取締部の働きには顕著なものがあり、実際上、危険ドラッグの蔓延を未然に抑え込んだことについては、大いなる賞賛に値するものと評価されている。
このようなことを考えて、薬物犯罪撲滅のために地道に働いておられる捜査官の方々に、少しでもお役に立てるものを提供できればと思い、本書を上梓した次第である。そのため本書は、さまざまな事態を想定して対応方針を検討することを前提とし、
薬物犯罪者、そして、それを擁護しようとする弁護人らと闘うためにも、本書において論述した裁判例や理論等を身に付けて、全国民のために奮闘していただきたいと思うところである。もちろん、どのような準備をしても想定外の事態を完全に防ぐことはできないものの、さまざまな事態を想定しながら対応方針を綿密に検討することで、想定外の事態にもある程度対処できるだけの能力を身に付けて対処できるようになるものと思われる。本書が一般国民を薬物犯罪から守ろうとする捜査官の一助になれば、望外の喜びである。
なお、本書の作成に当たっては、多くの研究者の方々にお世話になっており、なかでも、昭和医科大学薬学部毒物学講座沼澤聡教授(当時)には、覚醒剤の自己使用事犯において、同室内の他人が煙化して吸引していた覚醒剤を自らも吸ったため尿から覚醒剤反応が出たにすぎないとの主張を覆すため、この主張が化学的に成立しないことを立証するための研究を実施していただき、その成果物としての論文「ヒトにおけるメトキシフェタミンの煙吸入後のメトキシフェタミンとその代謝物の尿中プロファイル:能動的曝露と受動的曝露の区別を目指して」(上記表題は和訳したもの)を公表してもらっているところ、これを本書に掲載させていただいたことに深く感謝している次第である。
また、本書における大麻等の写真については、昭和医科大学特任教授・昭和医科大学富士山麓自然・生物研究所長の平井康昭氏のご厚意により提供していただいたものである。ここに心からの謝意を表したい。
令和8年7月
昭和医科大学医学部法医学講座 教授 薬学博士 城 祐一郎



