平成の後半は,矯正保護に関する基本法令の改廃が相次いだ。これらの改正に共通しているのは,犯罪者処遇を効果あらしめるため,地域社会の協力を求める必要があること及び犯罪被害者に対して配慮することが制度化されていることである。
それらの改廃の背景には,我が国の総人口が減少し続けていること,人口の大都市集中化と地方の過疎化が進んでいること,「少子高齢化」が加速していること,情報化社会の下で経済の変動が激しくなり,格差社会が顕著になっていることなど,社会状況が従来よりも大きく変化してきていることがある。その結果,犯罪者の高齢化が進んでいること,高齢運転者による交通事故が急激に増加していること,高齢者をターゲットとする組織的な振り込め詐欺が増加していること,社会への不満等に起因する無差別殺傷事件が発生していること,ネットワーク犯罪が増加していること,来日外国人による犯罪が増加傾向にあることなど犯罪状況にも変化が見られ,大きな社会問題にもなってきている。これら犯罪状況の変化により,矯正の対象となる犯罪者の収容状況も変わってきており,その処遇方法及び内容も変えていく必要があったのである。
『矯正用語事典』は,平成18年に初版が発刊された。そのはしがきには,「矯正の現状が過渡期にあることを認識し」,矯正関係法令の改正等がなされたときは,できる限り速やかに改訂する旨明記されており,平成21年には「刑事収容施設法」の制定施行を受けて改訂を行ったが,近年の矯正保護関係の基本法令の改廃による改正内容はさらに大きなもので,これらの改正によって今後の矯正のあるべき方向が示されたと見られるところから,2年ほど前から,編集委員が何度も集まって,用語の全項目について見直しを行い,必要と思われる新たな事項を追加するなどして大幅に改訂を加えることとし,令和の新年号を迎えた機に新訂版を発刊することとしたのである。ただ,矯正実務に密接に関連している用語に絞っていることは従前と変わっていない。執筆は,編集委員を中心として,それぞれの分野で活躍している矯正職員や若手研究者にも新たに加わってもらい,進められた。
しかし,成年と未成年の年齢区分の問題など,まだまだ,矯正関係の基本制度にかかる問題が残っている。これらの動きを注視し,今後も,本書を常に最新の内容のものとして継続させていくつもりである。矯正の実務家のみならず,研究者など多くの方々に活用されることを願っている。
令和元年8月
編集代表