なぜ、戸田市に全国から視察が殺到するのか?
公民連携のトップランナーである戸田市の取組を紹介!
現在は、「都市間競争」の時代である。10年前の戸田市政策研究所設置当時、このような言葉を使うと批判を受けることが多くあった。しかし、今では当たり前に認識される時代へと移り変わっている。この都市間競争の時代、自治体には一体何が求められているのだろうか。
過去10年を振り返ると、自治体を取り巻く環境はこれまでにないスピードで激変してきた。特に、「消滅可能性都市」の衝撃から始まった「地方創生」の流れに関しては、人口減少を他人事として捉えていた自治体にとっても自分事として考えるきっかけとなり、全ての自治体が本気で未来の在り方を考える契機となった。
一方で、この地方創生に関しては、自治体の「努力義務」として地方版総合戦略の策定に取り組んだ経緯もあり、これ自体で自治体間に大きな差は生じていないようにも感じられる。その理由としては、国から突然降ってきたという印象が強く、これからの自治体の在り方を考え抜くにはあまりにも短い時間であったことが影響しているのではないだろうか。また、目の前に発生した課題への「対策」に終始することとなり、これからの価値ある未来を「創生」するまでは至らなかったのかもしれない。
この未来を描きづらい人口急減時代においては、今一度自治体の原点に立ち返り、「住民の福祉の増進」を目指して自治体が最も輝く政策を推進していくことが求められる。自治体にとって相応しい価値ある未来とは何か、成功のストーリーを明確に描き、未来を創り上げていくことが肝要である。そのためには、政策を着実に研究・立案・実行し、まちづくりの主体を行政だけに限定することなく、市民や議員、民間企業などとの連携によって推進していくことが必要である。
本書では、戸田市における「政策づくりの仕組み」や「差別化戦略」、「外部との積極的な連携」を中心にまとめ、これからのまちづくりに必要な視点について紹介している。そのため、自治体職員や議員、地域政策の関係者にとって、非常に参考となる内容となっている。
まず、第Ⅰ部では、政策形成アドバイザーである牧瀬稔先生(関東学院大学法学部准教授)から、政策づくりに資する公民連携の可能性を中心に取り上げていただいた。ここでは、戸田市の事例ではなく、これからの自治体政策に不可欠な視点を紹介している。
第Ⅱ部では、戸田市の事例として「政策研究所」と「教育」を取り上げている。戸田市では、都市間競争の時代において市全体の政策形成力の向上を目指すとともに、他との差別化戦略として「教育日本一」を掲げて取組を進めており、この点を中心に紹介する。
第Ⅲ部では、政策研究所における大学や民間企業、外部機関との共同研究の事例について取り上げている。公民連携というと、ハード面が中心と思われがちではあるが、今回はソフトの部分で外部の知見を取り入れた共同研究の事例を紹介する。
戸田市は、首都圏に位置しており恵まれた地の利がある。しかし、それに胡座をかいていては、都市間競争の時代を勝ち抜いていくことができない。これからの時代は、自治体の未来に希望が持てるような住民から「共感」される政策が必要である。
戸田市では、他自治体との差別化を図りながら、前例にとらわれることなく住民から選ばれる政策を展開している。そのため、政策づくりを試行錯誤している自治体にとって、本書が政策を考えていくうえでのヒントとなれば幸いである。
2019年3月
戸田市長 菅原文仁