刑事事件の捜査や民事の訴訟事件では筆跡鑑定や印章鑑定が頻繁に利用されているが、日常生活の中では鑑定を必要とすることなどほとんどないから、社会一般では文書鑑定に関する認識は極めて薄く、人々に知られていない面が少なくない。著者は十数年前に文書鑑定に関する解説書を執筆したが、文具類やOA機器の急速な発展に伴う社会事情の移り変わりから、旧著が現状に即さないとのご指摘がしばしばである。今度、東京法令出版の企画をいただいて、捜査や訴訟事件に携わる方々に文書鑑定をご理解いただく目的から本書を執筆することにした。
文書鑑定では、例えば筆跡における筆順の違いや誤字の存在、印影では朱肉による押印印影とOA機器によるコピー印影の違いなど、基礎的な問題を認識していれば専門家以外であっても真否の判断が可能になる面が少なくない。本著ではそのような点を含めて真否の判断に必要な基礎的な問題に触れているが、司法関係のみでなく、官公署や金融業界の事務などを含む広く一般の方々のお役に立つところがあれば幸甚である。