入札関連犯罪の理論と実務

- A5判/256頁
- ●競売入札妨害罪の構造と談合システムを徹底分析
- ●捜査関係者・公共調達関係者必読の書
- 競売入札妨害罪のうち入札に関連する犯罪である談合罪及び入札妨害罪についての解釈上の問題を整理・検討
- それらの犯罪の背景となっている制度的・社会的問題などを分析
- 捜査実務及び立証に関する実務上の問題を検討
- 日本の公共調達制度の歴史的経過と、競売入札妨害罪の制定経緯を検証した。
- 談合罪及び偽計入札妨害罪の構成要件について概説し、談合罪については「公正なる価格を害する目的」に関する判例・学説の対立の経過について詳述した。
- 独占禁止法の関連規定の解釈と、それが入札談合行為に適用される理論構成について概説した。
- 「談合システム」が定着してきた歴史的経過と、我が国の公共調達をめぐる制度的・社会的要因を指摘した。 平成17年成立の「改正独禁法」と「品質確保法」の公共調達をめぐる不正行為に与える影響を分析した。
- 「経済警察」という新たな概念を提唱し、今後の捜査の在り方を検討した。
本書は、検事として実際の事件捜査に当たってこられた郷原教授が、 談合罪及び入札妨害罪について、どのようにすれば摘発をすることができるか、という実戦的な考えに立って、法解釈とその背景にあるものを明らかにし、 さらに捜査及び立証における実務上の問題についても詳しく解説したものである。 我々捜査に当たるものに、鋭利な武器があるのだということを教えてくれているのである。
郷原教授は、警察大学校での講義(本書に「特別補講」として収録)において、 「経済社会に巣くう悪党たちを退治していくことに警察の総力を挙げて取り組むべき時期にきているのではないか」との認識を示されている。 経済社会における治安維持のためには、警察が積極的に面的捜査を展開することに加えて、検察当局及び公正取引委員会などの規制当局との連携を図り、さらには、関係する企業社会の構成員の協力を得ていくことが求められるのである。
その意味で、本書は、談合罪や競売入札妨害罪の単なる解説書や捜査要領書ではなく、今後の「経済警察」の在り方を示すものでもある。
知能犯捜査や、経済関係事犯捜査、暴力団犯罪捜査などをはじめとする、社会的不正と闘うすべての捜査幹部に、必読の書として推薦する次第である。
このような「談合システム」によって非効率な産業構造が温存されたまま、 バブル経済崩壊後の長引く不況の中で何回となく景気対策としての大型公共事業予算の執行が行われ、 それが、国及び地方公共団体に膨大な負債をもたらすことになった。 一方で、近年、経済構造改革、行財政改革が進められる中で、公共調達分野においても、談合を排除し、公正な競争を実現することが求められる経済環境にあることに加えて、 過去に、談合構造の下での発注者側と受注業者との癒着・腐敗が贈収賄事件等として何度となく表面化し、大きな社会的問題となり、その温床となっている恒常的な談合構造の是正が強く求められており、 刑事司法機関としては、従来以上に積極的に談合及び談合に関連する犯罪の処罰に取り組むべきことが強く求められる状況にある。
本書は、このような状況にかんがみ、 ① 競売入札妨害罪のうち入札に関連する犯罪である談合罪及び入札妨害罪についての解釈上の問題を整理・検討すること、 ② その背景となっている制度的、社会的問題などを分析すること、 ③ 捜査実務及び立証に関する実務上の問題を検討すること ― などを目的とするものである。
なお、本書の最後に、「経済事犯の動向と犯罪捜査の実務」と題する「特別補講」を付け加えた。 平成17年1月と同年11月に筆者が警察大学校で行った講義の内容を再構成し、加筆修正を加えたものである。 本書のテーマである入札関連事犯を含む経済事犯の抑止を図る「経済警察」という新たな概念を提唱するものであり、その中で強調している「面的捜査」という手法は、 企業活動をめぐる経済事犯一般に対して有効な捜査手法だと確信している。
最近の事件の多発で国民の信頼を失いかけているようにも思われる企業社会の浄化と経済社会の規律の回復に、本書がいささかなりとも貢献することができれば望外の幸せである。
平成18年1月
-
第1編 序論
-
第1章 公共調達制度の歴史的経緯
- はじめに
- 第1節 指名競争
- 第2節 戦後の契約制度
-
第2章 競売入札妨害罪の制定経過
- 第1節 旧刑法及び改正前の現行刑法における入札妨害の処罰規定
- 第2節 談合行為への詐欺罪の適用
- 第3節 改正刑法仮案における談合罪の規定
- 第4節 談合罪の制定に関する帝国議会での議論
-
第1章 公共調達制度の歴史的経緯
-
第2編 競売入札妨害罪の構成要件とその解釈
- 序章 保護法益としての「公の入札の公正」
-
第1章 談合罪
- 第1節 談合罪の罪質と保護法益
- 第2節 談合罪の成立要件
-
第2章 入札妨害罪
- 第1節 入札妨害罪の構成要件とその解釈上の問題
- 第2節 入札施行者側の談合への関与に関する捜査実務上の問題
-
第3章 入札談合等への独占禁止法の適用
- 第1節 不当な取引制限
- 第2節 私的独占
-
第3編 公共調達をめぐる談合システムの構造と歴史的経過
-
第1章 戦後の談合に対する制裁・処罰の経過
- 第1節 談合のシステム化
- 第2節 「大津判決」の影響
- 第3節 談合罪による散発的摘発と「談合システム」の維持・強化
- 第4節 談合に対する独禁法の適用
- 第5節 談合罪及び偽計入札妨害罪の適用と贈収賄の摘発
-
第2章 「談合システム」の構造的要因の分析
- 第1節 談合システムの制度的要因
- 第2節 社会的要因
-
第3章 談合システムをめぐる状況の変化
- 第1節 品質確保法の内容
- 第2節 品質確保法制定と独禁法改正が公共調達をめぐる不正行為に与える影響
- 第3節 品質確保法と偽計入札妨害罪、私的独占
- 第4節 深化(進化)する談合構造
-
第1章 戦後の談合に対する制裁・処罰の経過
-
第4編 競売入札妨害罪の捜査実務上の問題と検討
-
第1章 「公正なる価格を害する目的」の立証
- 第1節 立証の現状
- 第2節 公共工事発注をめぐる状況の変化と競売入札妨害罪の立証
-
第1章 「公正なる価格を害する目的」の立証
-
●特別補講 経済事犯の動向と犯罪捜査の実務
- はじめに
-
第1 経済犯罪捜査総論
- 1 一般の犯罪と経済事犯の違い
-
2 経済事犯の犯罪としての特質
- (1) 反道徳性・非倫理性が希薄
- (2) 目的・動機の合理性
- (3) 記録化の必然性
-
3 特質に対応した捜査手法
- (1) 面的捜査
- (2) 仮設を組み立てること
- (3) 法令と罰則の活用
- (4) 捜索の重要性
-
第2 経済事犯捜査各論
-
1 贈収賄
- (1) 贈収賄に関する三要素と捜査の基本方針
- (2) 贈収賄事件の捜査手法
- (3) 公共工事に絡む贈収賄事件の類型
- (4) 「公共工事の品質確保の促進に関する法律」制定の影響
-
2 政治資金規正法違反と公職選挙法違反
- (1) 政治資金規正法違反
- (2) 公職選挙法違反
-
3 公共工事と裏金
- (1) 不正行為における裏金の必然性
- (2) 裏金の作り方
- (3) 裏金であるがゆえの「記録化」の必要性
- (4) 裏金を中心とする「面的捜査」の手法
-
4 その他の経済事犯
- (1) 詐欺
- (2) 倒産犯罪
-
5 経済事犯の動向と経済警察の課題
- (1) 経済社会の構造変革と経済事犯への対応
- (2) 経済事犯対策に関する発想の転換
- (3) 「面的捜査」と人材育成・フォーメーション
-
1 贈収賄