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英語で学ぶ刑法総論

編著/監修
城 祐一郎(元最高検察庁検事,警察大学校講師,昭和大学医学部教授(薬学博士)) 著
体裁
A5  272ページ
定価
4,400 円(消費税込み)
本体価格+税
4,000 円+税
ISBN
ISBN978-4-8090-1452-9
C3032 \4000E
発行日
令和4年10月15日
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本書の特長

刑法総論を英語で解説したテキストが発刊!

  • 国際化が進み、様々な場面で、日本に関する情報を海外へ発信する機会が増えている。
  • 刑事司法の領域でも同様であるが、これまで日本の刑法について英語で解説された書籍はなかった。
  • 本書は、昭和大学・城祐一郎教授が外国の大学で行った刑法総論の講義をベースにしたものである。
  • 条文、判例だけでなく、理論的な部分も含めて、英語でコンパクトに解説されている。
  • 対訳ではないが、日本語による解説も加えられている。
  • 刑法に関わる情報発信を、英語で行いたいと考えている実務家、学生、研究者にとって手放せない書となるだろう。

はしがき

本書は、我が国の刑法を英語で書き表したものである。筆者は、ロシア連邦のサンクトペテルブルク大学(旧レニングラード大学)から、我が国の刑法総論の集中講義を依頼されたことから、その講義用ペーパーとして本書の元となるものを作成し、実際に授業でそれを使用した。したがって、刑法の全体的な理解を主たる目的としているため、例えば、原因において自由な行為や罪数論などについては特には触れていない。その点は従来の刑法の教科書などとは異なっているし、また、逆に、少年の刑事責任に関する説明も依頼されたことから、少年法に関する記述が含まれている。その後、同書に加筆・修正を加えた上、日本語訳を付けたものが本書である。

したがって、本書では、刑法全体を扱っているものの、だからといって刑法のすべての概念や論点を拾い尽くしているわけではない。筆者の取捨選択に基づいているので偏りもあると思われるが、適宜な分量という配慮などからして、当面、必要最小限と思われるものを拾っているものであることをご理解いただきたい。


我が国を取り巻く国際情勢を見ると、以前とは比べものにならないくらい、あらゆる面で国際化が進んでいる。海外にある国連を始めとする国際機関等への邦人の就職・就業などの増加を図ることも国家的な喫緊の課題とされている。翻って、我が国の法律界における国際化への対応はどのようなものであったのであろうか。国際法の分野などを除いて、国内法分野の国際化への対応は非常に乏しいものであったとしか言えないのではないかと思われる。これまで我が国では、刑法を英語で表記したものは非常に少なく、我が国の学生や研究者が気軽に手に取って日常的に参照するようなものはほとんどなかったといってよい。そのため、海外で諸外国の法律を学ぼうとする者にとって、我が国の刑法の紹介・説明をしようと思っても困難を来すということがあったのではないかと思われるし、また、来日した学者又は法律実務家、更には留学生等に対して、我が国の刑法などの全体像を説明して理解を求めようとしても、同様の困難があったのではないかと推測される。さらに、来日して我が国の刑法を学ぼうとする留学生らにとっても、必要な英文表記の解説書がなかったのである。

このような観点から、本書がいくらかでも国内法の国際化対応への試金石となり得るのではないかと考え、出版に至ったという次第である。


本書では、日本語訳も付けてあるが、日本語訳は直訳ではない。むしろ日本語版と呼ぶのが相応しいと思われるものであり、情報量も日本語版のほうが多くなっている。英語版は繰り返しや、学説の名称など余計な表現はかえって混乱をもたらすおそれもあるので、極力シンプルに表現するように試みてある。翻って、日本語版は、理解を助けるために、繰り返して別の表現で説明した部分などもあり、従来の刑法総論の教科書に近い形になっている。


判例の英訳などは筆者の責任において行っている。ただ、いわゆるシャクティパット事件、いわゆるスワット事件、自招侵害事件など、近時の重要判例については、最高裁において、その判決の英訳を公開していることから、それらについては、当該英訳を参考にさせていただいた上、筆者において適宜要約するなどして表記している。

なお、本書での英語表記の適切性・妥当性については、Editage社にnative checkを依頼しており、同社において品質保証がなされている。同社に厚く謝意を表したい。また、刑法等の条文の英訳についてはすべて法務省が運営する Japanese Law Translation のデータベースに掲載されたものをほぼそのまま使用している。


本年6 月、刑罰の種類に関して、懲役刑と禁錮刑の区別をなくし、拘禁刑に一本化するための法改正がなされたが、その施行はかなり先なので、ここでは従来どおりの法制度について説明してあることを付言しておきたい。


本書が、我が国の刑事司法制度に興味を持ち、海外に飛躍しようとする日本人学生の希望の実現や、我が国の刑事法の理解に努めようとする留学生らの勉学の一助になれば、筆者としてはこの上のない喜びである。


令和4年8月

城 祐一郎


目次

  • 本書を使っていただくに当たって
  • 第1編 刑法に関する基本的概念
    • 第1章 刑法をはじめとする刑事法の我が国法体系における位置付け
    • 第2章 罪刑法定主義
    • 第3章 犯罪の概念
      • 第1節 犯罪の種類
      • 第2節 犯罪の成立要件
    • 第4章 犯罪の主体
      • 第1節 自然人と法人
      • 第2節 身分犯
  • 第2編 構成要件該当性
    • 第1章 総説
    • 第2章 犯罪行為の客観的要件
      • 第1節 作為犯と不作為犯
        • 第1 総説
        • 第2 作為犯における問題点―間接正犯―
        • 第3 不作為犯における法的問題点
      • 第2節 挙動犯と結果犯
      • 第3節 因果関係
        • 第1 条件関係
        • 第2 条件説(修正された条件説)
        • 第3 相当因果関係説
        • 第4 危険の現実化説
        • 第5 因果関係の断絶
        • 第6 同時傷害の特例
    • 第3章 犯罪行為の主観的要件
      • 第1節 故意
        • 第1 総説
        • 第2 結果的加重犯
      • 第2節 錯誤
        • 第1 総説―事実の錯誤と法律の錯誤―
        • 第2 事例⑴ ―同一構成要件内の客体の錯誤―
        • 第3 事例⑵ ―同一構成要件内の打撃の錯誤―
        • 第4 事例⑶ ―同一構成要件内の因果関係の錯誤―
        • 第5 事例⑷ ―異なった構成要件間の錯誤―
        • 第6 事例⑸ ―異なった構成要件間の客体の錯誤―
        • 第7 事例⑹ ―異なった構成要件間の打撃の錯誤―
      • 第3節 目的
      • 第4節 過失
        • 第1 過失犯の種類
        • 第2 刑法211条の業務上過失致死傷罪における「過失」の概念
        • 第3 業務上過失致死事案における「過失」内容の検討事例
        • 第4 信頼の原則
    • 第4章 未遂犯―実行の着手―
      • 第1節 総説
      • 第2節 実行の着手
      • 第3節 予備罪
      • 第4節 不能犯
    • 第5章 共犯
      • 第1節 総説
      • 第2節 共同正犯
      • 第3節 共謀共同正犯
        • 第1 共謀共同正犯理論に関する争点
        • 第2 共謀共同正犯に関する参考判例―山口組組長らによる拳銃所持事件―
      • 第4節 教唆犯
      • 第5節 幇助犯
  • 第3編 違法性阻却事由
    • 第1章 正当行為
    • 第2章 正当防衛
      • 第1節 総説
      • 第2節 「急迫性」の要件の解釈⑴ ―侵害行為の開始時期―
      • 第3節 「急迫性」の要件の解釈⑵ ―侵害行為の継続・終了の有無―
      • 第4節 「急迫性」の要件の解釈⑶ ―侵害の予期―
      • 第5節 「急迫性」の要件の解釈⑷ ―自招侵害―
      • 第6節 「不正」の要件の解釈
      • 第7節 「自己又は他人の権利」の解釈
      • 第8節 「防衛するため」の要件の解釈
      • 第9節 「やむを得ずにした行為」の要件の解釈
    • 第3章 過剰防衛
    • 第4章 緊急避難
    • 第5章 過剰避難
    • 第6章 被害者の承諾
      • 第1節 総説
      • 第2節 傷害罪における被害者の承諾の効果
  • 第4編 刑事責任
    • 第1章 刑事責任に関する基本的な概念
    • 第2章 裁判所による責任能力の有無・程度に関する判断
    • 第3章 刑法の「刑事未成年」と少年法の「少年」に関する概念
      • 第1節 刑事未成年
      • 第2節 少年法にいう「少年」の定義及び家庭裁判所が関与する特別な手続
    • 第4章 少年に対する刑罰の緩和
  • 第5編 刑罰論
    • 第1章 刑罰の必要性
      • 第1節 総説
      • 第2節 応報刑論
      • 第3節 目的刑論(犯罪抑止と更生)
      • 第4節 現在の我が国における主流な刑罰理論
    • 第2章 刑法が規定する刑罰制度
      • 第1節 総説
      • 第2節 死刑
        • 第1 死刑を定める規定、執行に関する規定等の概要
        • 第2 死刑の科刑状況及び執行状況
        • 第3 死刑存廃論
      • 第3節 自由刑
        • 第1 自由刑の種類
        • 第2 無期懲役
        • 第3 有期懲役・有期禁錮
      • 第4節 執行猶予
        • 第1 刑の猶予制度が設けられた理由
        • 第2 刑の執行猶予が適用されるための要件
        • 第3 刑の一部執行猶予制度の新設
        • 第4 刑の執行猶予に類似した制度
      • 第5節 罰金
      • 第6節 拘留・科料
      • 第7節 没収

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