ようやく治安回復の兆しが見える今日、警察活動に対する社会の期待は大きくなる一方だと思います。法治国家であるわが国の最前線で、法の支配を実現し、維持しているのは警察官ですから、法の執行者としての警察官に期待が集まるのは当然です。また、わが国の警察官は、社会から倫理の体現者としての信頼も寄せられています。それが警察官に対する社会の敬意に結びついていることにも異論はないでしょう。
さらに、警察官は、一般市民の身近な相談相手としての役割も社会から期待されています。日常生活の中でトラブルを抱えた人が、まず警察官に相談したいと考えるのは自然だと言えるでしょう。パニックに陥りそうになった人は、法の執行者であり、倫理の体現者でもある警察官に助けてもらいたいのです。
もっとも、さまざまな相談を受ける警察官は、相談事すべてに直接対応することが求められるわけではありません。心すべきことは、何と言ってもまず、相談者の話に真摯に耳を傾ける姿勢を持つことです。話を聴くだけで、相談者のストレスが解消することは決して稀なことではありません。それから、もう一つ大切なことは、事件、事故に限らず、案件に応じて、関係機関を紹介し、迅速的確にバトンタッチすることです。そのためには、警察内部の他の部署に止まらず、外部の行政機関や裁判所、弁護士会などについて、その守備範囲と業務を知っておくことが有益でしょう。
親切は余裕から生まれます。そして、余裕は自信から生まれます。警察官の皆さんにとって、民事問題は関心が薄いかもしれませんが、その分野の知識が少し身に付くだけでも、自信が生まれ、余裕が出てくると思います。その意味で、この本が警察官の皆さんのお役に立つことを願ってやみません。
平成19年 9月
弁護士 長尾 敏成
平成19年10月に本書が発行されてから、早いもので6年余りの月日が経過しました。その間、多くの方々にお読みいただき、感謝とその責任の重さを痛感しております。
今回、出版元である東京法令出版株式会社の鄭重なる取り計らいにより、本書の一部を改訂し、刊行することとなりました。
主な改訂内容は、インターネットの急速な普及により、電子商取引や情報通信を巡るトラブルが急激に増加していること、また、インターネットの悪意ある活用による犯罪が極めて多くなってきていること等に対応した加筆・補正ですが、とりわけ、パソコンやスマートフォンを含む携帯電話のインターネット機能を利用した悪質商法、子どもたちの「ネットいじめ」など、これらトラブルに対する理解や対処法は、警察安全相談上喫緊の課題と考えております。
また昨年は、いわゆるストーカー規制法やDV防止法の一部改正が行われたほか、新たに「いじめ防止対策推進法」が成立・公布されるなど、法律の整備も行われており、これら事案についての対処法や法律の要点をできるだけ平易かつ簡潔に読者の共感が得られるよう編集に努めたつもりです。
昨今、人々を取り巻く社会情勢は益々多様化し、これに伴い治安状況も一層厳しさを増しております。同時に警察業務に関わる多くの警察職員の心身への負担は計り知れないものであり、警察OBとして、そのご労苦に心からの感謝と、本書が皆様の業務遂行の糧として、少しでもお役に立てばと考える次第です。
平成26年 4月
小鹿 輝夫