素人眼には易しそうでいて、実際当たってみると難しいのが刑法である。
盗んだ、欺した、殺した、壊したと聞けば、それが犯罪になって、引っ張られて、施設に入れられると、幼児でも知っていることである。
しかし、刑法典を開いて見た者はびっくりする。それは、あながち言葉が難しいせいとばかりは言えない。表現が圧縮され簡潔に過ぎるせいでもある。
警察官は、日夜街頭に立って犯罪と対決している。
刑法は、警察官にしてみるとそれは犯罪とは何か、我が対決の相手は何かを示すものである。そして、敵は敵なりに複雑な姿をしており、学説はこれに対してとどまる所を知らない洪水を浴びせる。このままでは警察官は迷いに迷わなければならない。
この本の目的は、初めて刑法を学習する警察官が第一線でとりあえずぶつかる最低限度の犯罪を中心に解説を加えることにしている。そして、第一線を経験し、先に進んだ警察官がその判断力を増すことも同時に意図している。
今、ようやくその宿願を達成してこの書物を送り出すことができた。
著者としては多少の感慨なきを得ない。