火災調査を担当する皆様は、実況見分で、焼けの方向性や焼き状況から出火箇所を推定し、当該箇所から発火源を発掘する作業は興味深く実施されていることと思いますが、その後で、実況見分の結果、関係者への質問に対する供述内容、火災の原因判定等あらゆることを文書にする火災調査書類の作成は、事務量も多く苦労されていることと思います。
そして、火災調査書類の作成については、一朝一夕ではいかず、各書類の作成目的を理解することはもちろん、書類ごとに必要な内容を記載する必要があります。
一方、火災調査を取り巻く環境は、電化製品の進化、生活の多様化から過去に経験のない原因による火災が発生するなどしており、火災調査は複雑多岐にわたっているほか、火災調査書類は、情報公開制度の時代背景、市民の価値観の多様化と過失割合の考え方等により、市民に開示されることや裁判の場においても証拠とされることが増えています。
このように火災調査書類は公開されることを前提として、火災現場の客観的事実を正確に記載するとともに、原因の判定では消防職員としての考察を加え、かつ、整合性のとれた火災調査書類を作成することが大切になります。
そんな中、団塊世代の大量退職を迎え、多くの火災を経験した先輩職員から、火災調査のための現場の見方、火災調査書類の作成について、その技術、方法をどのように受け継いでいくかが課題になっています。
本書は、火災調査書類の書き方について、当研究会が多くの先輩職員から学んだことと、永年火災調査業務で経験してきたことを火災調査の経験が少ない職員へ伝承するため、『月刊消防』で平成18年10月から平成19年11月までに連載した内容に加筆したほか、火災事例の写真をカラーにして、現場の状況をより理解しやすくしました。
読者の皆様の火災調査書類の作成に微力ながら役立てていただければと思います。
最後になりますが、火災現場での実況見分や質問調書を録取する際には、事務的でなく、り災者の立場に立った思いやりのある火災調査を心掛けていただくことをお願いするとともに、読者の皆様の御活躍を祈念いたします。
そして、全国の多くの消防職員が苦労している火災調査に関する内容を取り上げていただき、御指導と御協力をいただいた『月刊消防』及び本書の編集担当者の皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。
平成20年10月
調査実務研究会