我が国において、救急救命士が気管挿管を特定行為の一環として実施できるようになり、5年が経過しようとしております。既に6,000名以上の救急救命士が、気管挿管の実習を終了し、年間3,000件近い気管挿管が実施されるようになりました。この間、薬剤(アドレナリン)投与が行われるようになり、救急救命士の処置によって心肺停止傷病者の一か月後の生存率が8.8%にまで改善してきました。またガイドライン2005の変更により、循環の再開が蘇生に必須の要件となり、確かに気管挿管を含めた人工呼吸の重要性は、以前と比べて確実に下がってきています。
我が国のウツタインデータは心原性心停止を中心として分析されていますが、非心原性心停止において気管挿管は、心拍再開に重要な役割をなしていることが明らかです。この点については、今後一般人によるバイスタンダーCPRが充足してくるとよりその重要性が認識されるでしょう。今後のさらなる分析が必要となりますが、いずれにしても救急救命士の行う気管挿管の位置付けは、本書が発刊された5年前とは大きく変化してきています。本来、気管挿管は呼吸困難を呈する傷病者に行われるべきでしょうし、今後生体への処置拡大が望まれるところです。
一方、気管挿管実施数が増えれば増えるほど、気管挿管に関連する事故のリスクは高くなります。2003年の愛知県での誤挿管事故とその後の対応は、全国のMC協議会に衝撃を与えました。既に消防組織の中にもリスクマネージメントの概念の導入が必要になってきました。
そこで本書は発刊から5年を経過し、内容を一刷し、新たな時代に対応すべくリニューアルしました。これらMC上の問題やリスクマネージメントを含め、現在の救急救命士による気管挿管の問題点を網羅したつもりです。
本書がこれから気管挿管のトレーニングを行う人、指導される皆さまにとって一助となれば幸いです。
平成21年8月吉日
国士舘大学大学院
救急救命システムコース 主任教授
田中 秀治