令和に生きる全ての警察官へ――
大好評「実際の仕事に役立つ憲法解説書」の改訂版!
本書は,「警察官の実際の仕事に役立つ憲法を明らかにする」という観点から作られた初めての「警察官のための憲法解説書」である。警察官が憲法を学ぶ目的は,〃法の定める基本的人権を不当に侵害しないようにする,警察に関する様々な制度や法令を憲法と関係付けてより深く理解する,「憲法」「人権」を理由にした警察に対する不当な批判に自信をもって反論できるようにする,ことにある。このため,本書では,刑事手続上の人権,表現の自由,みだりに容ぼう等を撮影されない自由など,警察官の権限行使に関係のある人権について,保障と限界(権力的介入が可能とされる程度と理由)を解説するとともに,警察関係の法制度と国民主権の原理等との関わりを明らかにすることに努めた。
本書では,専ら最高裁判所の判例と法令とを基にして解説を行った。最高裁判所は,憲法解釈についての最終的な判断機関である。また,最高裁判所によって違憲とされていない法令は,すべて憲法に適合したものといえる。本書は,これらの有権的な憲法解釈のみを記述し,既存の「憲法教科書」にあるような研究者の見解には一切触れていない。法の執行者である警察官にとって求められるのは,「判例等で明らかにされた現実に有効な憲法解釈を学ぶ」ことであって,「学問として憲法のあるべき解釈を探求する」ことではないからである。学問的に重要と考えられている解釈上の論点で,触れていないものも多い。これに対し,「警察行政法」(一部は「刑事訴訟法」)につながる場面では,憲法の規定にとどまらず,個別の法令に至る解説も行った。特に,条例については,警察官も制定に関わる場面があり得ることから,かなり詳しく記述している。
本書は,二部構成となっている。第1部では,「警察官のための憲法」と題して,警察官にとって意味のある規定だけを取り上げ,前記の目的に対応する憲法知識の解説をしている。これに対し,第2部では,「社会常識としての憲法」と題して,憲法の全条文につき,簡単な逐条的解説をしている。警察官も社会人,主権者の一人として,憲法全体の概略を知っておくことが必要だと考えたからである。
本書が,警察官にとって本当に意味のある憲法解説書となることを,筆者として期待している。
平成22年7月
早稲田大学客員教授(警視監,前福岡県警察本部長)
田村 正博
本書は,日本で初めての「警察官の実際の仕事に役立つ憲法解説書」として十年あまり前に発刊し,幸いにも好評を得ることができた。今回,内容の面でも,表現の面でも,「令和の時代にふさわしい警察官のための憲法解説書」とすることを目指して,改訂を行った。
改訂方針の一つ目は,近年の最高裁判所の判例で示されている考え方,今日の憲法感覚を反映したものとすることである。具体的には,平成20年代以降の判例をできるだけ多く記述することに加えて,その底にある考え方・とらえ方を紹介するようにした。GPS捜査判例とエックス線検査を強制であるとした判例,税関における国際郵便の検査に関する判例を,プライバシーへの期待を重視するという見方に立った一連のものと位置付けている。その一方で,今日の考え方からすれば維持されにくいと思える判例の見解は,そのまま記述することのないようにした。また,京都府の風俗案内所条例をめぐる判例など,警察が制度をつくる場面で役立つ情報も提供するようにしている。
改訂方針の二つ目は,実務との関連性をより多くの場面で明らかにすることである。憲法の考え方に沿って実務が行われるべきこと改は当然であるし,また実務の運用が制度や仕組みに対する評価に影響を与える。特に今日では,データを含めたプライバシーをめぐる問題が重要であり,保管・使用制限を守ることがなぜ必要なのかを明らかにした。そのほか,録音録画の法制化を受けた警察捜査のあり方,「忘れられる権利」と逮捕事実の公表などに関するコラムも追加している。
改訂方針の三つ目は,表現をできるだけ分かりやすいものにすることである。本書を全体にわたって見直し,分かりにくい表現を改め,読みにくい漢字はできるだけ使わないようにした。正確な理解のためにどうしても変えることのできない用語については,読みを記載し,補足的な説明を必要に応じて付けている。
本書が,令和の時代の多くの警察官に読まれることを願っている。
令和3年4月
京都産業大学法学部教授・弁護士(元警察大学校長)
田村 正博