近年、火災件数、延焼火災の減少傾向の中で、各級指揮者の指揮能力及び隊員の活動能力の維持、向上が課題となっています。
大隊長には、指揮本部長としての専門的な高い知識、技術とともに、豊かな経験に裏打ちされた判断力と統率力が強く求められます。この能力は、経験知であり一朝一夕に向上を図ることが困難であることから、大隊長の知識、技術の伝承を難しくしています。
一般に、経験知は体系化、モデル化することによって、新任者等を短期間である程度まで戦力化するのに有効です。また、早期に一定のレベルまで到達させることにより、更に難しい課題にチャレンジし、難しい部分に気づき、それを身に付けることにより能力の向上を図ることができるといわれています。消防活動基準(要領)等は、過去における消防活動の経験則を体系化したものです。同様に、大隊長の指揮要領(ノウハウ)も、多くの火災事例、教訓等を基に体系化し、モデル化することによって、先人の多くの経験等を効果的に生かすことができます。
本書は、新任の大隊長及び大隊長を目指す者への、大隊長業務の理解深化を支援し、啓発を誘導して、更には大隊長としての能力アップに挑戦させることを目標としたものです。そのため、理解しやすいように木造、防火造建物火災及び耐火造建物火災に対象を絞って、出場から現場引揚げまでの基本的な業務及び指揮対応等について、できる範囲で体系化、モデル化を図りました。第1章「大隊長の責務」では、大隊長の業務全体像を分かりやすく説明し、第2章から第5章では、大隊長の指揮対応を「出場途上及び現場到着時の措置」「指揮本部の運営」「人命検索、救助及び消火活動の統括指揮」「現場管理の統括指揮」に分けて、状況判断、指揮対応等のポイントを説明しています。
本書が、新任の大隊長及び大隊長を目指す人、更には大隊長の能力アップに、少しでも役立てばと願うものであります。