消防法第7章では、火災の調査業務を消防機関の責務として定めており、我々消防職員は火災の予防、火災の警戒、消火の活動、救急業務等とともに、この火災の調査を実施しています。
これらの消防機関に係る業務の中で、火災の鎮火後にり災者から「り災証明」を求めてくること以外の火災調査そのものは、住民からの申請や要請に基づくわけではなく、他の業務と比較して、消防側が火災の原因、損害の程度、消防用設備の作動状況、死傷者の発生状況等を明らかにするためにアクションを起こし、住民の財産(焼損物件等)を調査するほか、住民の供述を求めることが必要になります。
そして、この調査対象(建物・車両・その他の物件)の関係者や供述を求める対象者は、火元の占有者・管理者・所有者ばかりでなく、類焼した対象物の関係者のほか、通行人や付近住民等の火災通報者、初期消火者等の善意の第三者にも任意性を担保しながら協力を求めて火災調査を実施する必要性も多くあります。
このように、消防側が説明をすることが主になるほか、火災調査で作成する書類の種類とその量は、他の業務の比較になりません。
また、火災は同じ現場で起こることはほとんどなく、仮に同じ現場であっても焼損の範囲や焼損物件、焼損状況が違ってくるほか、火災に至る経過に同じことがないため、火災現場での実況見分では過去の経験より、焼けの強弱から焼けの方向性を見極めて出火箇所の特定をすることができますが、書類の作成となると現場が違うことで過去の経験を生かしにくく、苦労されているのではないでしょうか。
そこで、「月刊消防」の読者の投書をはじめ、東京法令出版株式会社のご担当者が各消防本部に出向いて実施したヒアリングの結果、火災調査の経験の少ない消防職員から数多くの要望がありました、火災調査書類の実例を挙げることとなりました。
火災調査で苦労している消防職員の要望を受けて、実例火災調査書類の説明をさせていただく機会を与えていただき、本書を出版できることに感謝申し上げますとともに、火災調査業務を担当されている消防職員、特に火災調査書類の作成で苦労されている皆様のために参考になることを願います。
本書の火災事例はあくまでも一例であり、この例文をそのまま他の火災に引用することはふさわしくない場合もありますので、これが全てではないことをご理解いただきたいと思います。
例えば、消防本部ごとに使用している火災調査書類の様式も違いますし、記載する項目、表現方法(言い回し)等は各消防本部で伝承されていることもあると思いますので、各火災調査書類で必要な書類の作成目的と記載する項目についての事例を参考にしてください。
本書では事例を中心にしていますので、火災調査書類ごとの作成目的、記載項目については、東京法令出版株式会社発行の「事例でわかる 火災調査書類の書き方」を参考にしてください。
近年、火災調査書類は消防機関だけのものではなく、刑事裁判の証拠資料として使用されるほか、火災の原因に係る過失の有無や出火箇所の責任問題について、当事者間の争点となり、弁護士会からの照会や開示請求が増加するなど、外部に出る書類であることを考慮して作成する必要も出てきていますので、火災調査担当者だけでなく、組織を挙げて火災調査書類の重要性について再認識する必要があるのではないでしょうか。
なお、本書で取り上げている火災調査書類の例は、「月刊消防」の読者から質問があった事例を主にしていますが、理解しやすくするために若干のアレンジを加えているほか、個人に関する情報などを一部フィクションとさせていただいていますので、ご了承ください。