予防業務は、消火活動、救急活動と合わせて消防行政の中での三つの大きな活動領域の一つであり、円滑な消防活動の確保の上からも重要な業務となっている。しかし、消火活動や救急活動とは業務内容が異なり、若干時間的なゆとりがあるとはいえ、消防法令に基づく行政措置権の誤りや誤った行政指導に対し行政不服審査や損害賠償請求など極めて厳しい反論がなされることがある。それゆえ、業務を適正に遂行しなければならず、法令、通知、技術基準などを正しく理解し、相手方の立場を理解した上で進めなければならない業務となっている。
現在その業務は、防火管理、危険物施設の許認可、消防用設備等の設置等に係る分野だけでなく、防火対象物点検、設備点検、火気規制、防炎規制、住警器設置さらに違反処理事務など多様な分野に及んでおり、予防分野全体が広範囲なため容易に取りつきにくい印象を与える領域となっている。予防業務の基本を修得するためには、基礎となる法令をしっかり読み込んで、何が要点となっているかを理解した上で勉強を進めることが望まれる。
本書は、まず第1章と第2章で立入検査と違反処理の手順や方法を「立入検査標準マニュアル」「違反処理標準マニュアル」から抜き出し、現在の予防行政が違反是正に向けた姿勢を根底において進められていることを理解してもらう内容とした。次に、第3章から第6章は消防法の条文に沿って、その内容を整理して要点を示し、政令等や過去の経緯なども掲載するようにした。
見出しに縦書きの消防法条文を掲載したのは、法令集とリンクさせることにより、将来にわたって、予防業務を日常的に行う上で、法令集が身近に使われることを考慮したためである。また、過去の災害や経緯を踏まえ、本文の余話を“CoffeeBreak”のコーナーで取り上げて説明を試みた。
予防技術検定の専攻科目は、防火査察・消防用設備等・危険物の3科目がある。消防用設備等については、消防設備士試験対策のテキスト・問題集があり、危険物においても同様のものがあるが、防火査察のテキストが少ないことから、本書は、試験対策として役立つことも目的として編集しており、各項目の中に試験対策上知っておいてもらいたいことを「ポイント」として掲載した。各項目の「演習問題」は、できるだけ本文を読み込んで自身で考え理解してもらえる内容に絞っており、他の問題集にもチャレンジされるとよい。
消防の業務は、予防、警防、救急など、どのような仕事も消防職員として個々人が責任をもって判断し、活動する分野が広くかつ深いものが多く、自分のスキルを磨くことにより、やりがいが創出される職場である。つまり、消防の世界は、仕事の内容が個々の職員の資質に委ねられている部分が大きく、自分自身が納得して「面白い」と思うと、どのような分野も面白く感じられ充実感のある仕事となる。この本が、興味を持って、予防業務に取り組んでもらえる一助になれば幸いである。
平成29年12月
予防業務支援グループ
代表 北村芳嗣