近年、救急出動件数は全国的に増加の一途をたどっています。救急需要の増加に伴い、救急隊員には多種多様化する救急事案に対応するため、高度かつ柔軟な対応能力が求められています。
これらの各種事案に対応するためには、救急に関する知識や技術を向上させることに加え、救急現場に潜む危険要因の予測や回避能力も身に付けておく必要があります。こうした能力の習得には、職員個々の経験やベテラン職員からの知識・技術の伝承に加え、日頃から現場活動で、様々な危険要因を予測する習慣を身に付けておくことが重要となります。
しかし、救急業務の従事経験が乏しい職員や昇任して間もない救急隊長にとっては、救急事案の「どこに危険要因が潜んでいるのか」、「どのような事柄に注意を払う必要があるのか」、「危険に対する回避・対処方法」などを自ら想定するのは非常に困難です。また、日常的に救急業務に従事する職員にとっても、隊員同士や救急隊の中で救急業務の中に潜む危険要因やその対処方法等について、共通認識を持つことが難しく、それらの習得ツールはほとんどないのが現状でした。
そこで、既に工業界において事故や災害を未然に防ぐ目的で実施されている「危険(K)予知(Y)トレーニング(T)」を参考に、救急事案の中で発生しやすい事故やヒヤリ・ハット事例などを集録し、救急業務における事故や災害を未然防止するための能力を養うことを目的に「救急KYTシート」を作成しました。このシートは、出動指令から帰署までの救急業務に潜む様々な危険要因について、救急現場での各場面を写真やイラストで切り取り、隊員同士の活発な意見交換・情報共有を通して、習得することができる構成となっています。
この「救急KYTシート」が、救急事案における危険要因に対する感受性や事案対応能力の向上に役立ち、救急業務での受傷事故を1つでもなくすための一助となれば幸いです。
令和元年(2019年)12月
兵庫県西宮市消防局