「災害があっても命を守り抜く」
1997年(平成9年)から防災研究者として活動をしてきた私の目的は何かと問われれば、一点の曇りもなく明確にそう答えます。命を守り抜く、すなわち自然災害で人が死なないために、防災研究者として何ができるのか、防災はどうあるべきなのかを考え、悩み、行動し、疑問にぶつかり、また考える。その積み重ねで防災現場と向き合ってきました。
自然災害で命を守り抜くために最も必要なこと、それは、被害に遭う前に避難することです。言われてみれば当たり前の話ですが、これがなかなか難しいのが現実です。
災害の本質は、誰にとっても予想もしないことが起こること。もっと正確に言えば、「誰にとっても予想もしたくないことが起こる」ことです。そして、予想もしたくないため、備えも怠りがちになります。なぜなら、備えという行動は、起こる事態を想定して取る行動だからです。避難が難しい理由もそこにあります。
避難することは難しい。「そうであっても、自然災害で命を落としてほしくない!」私が防災研究と活動を続ける理由は、やはりこの一点に尽きるのです。
1994年(平成6年)、河川洪水を対象に始まった日本のハザードマップは、20年以上の月日を経て、現在では、ほぼ全ての自然災害を対象に作成され、広く普及してきています。
地域それぞれでの防災活動がより重要になってきている中で、ハザードマップを作る必要に迫られながらも、どのように作ればよいのか、何を伝えていくべきなのかに迷い、悩んでいる現場担当者の方も多いのではないでしょうか。
そんなみなさんに心から伝えたいことは、「何のためにハザードマップを作るのか」ということに立ち返って考えてほしいということです。
「ハザードマップは、自然災害から自分たちの命を守り抜く地域防災力を高めるために作るもの」だと私は考えています。その視点で「自分のまちから自然災害の犠牲者を出すものか!」という気概を持ち、ハザードマップ作りと真摯に向き合い、その活用の仕方も含めて考えてほしいと願っています。
この本が、ハザードマップ作りや防災を考えるきっかけ、地域防災の一助になれば、こんなにうれしいことはありません。
令和2年1月
東京大学大学院情報学環特任教授
片田 敏孝