従来の戦術を分析し、さらに災害から得た貴重な教訓を加味した消防戦術の原典として、東京消防庁が総力を挙げて平成4年にまとめ上げた『新消防戦術』。長年、消防職員の座右の書として定着し、実戦において活用がなされたことで、多くの成果の礎となってきました。
その『新消防戦術』の第1編「指揮」に登載されている「指揮の要諦」を、現在の状況を踏まえてアップデートして単行本化。現場活動の指揮を担う指揮者が、現場の状況を把握し、決断し、実行し、責任をとるために大切な要点など、「指揮」の根幹にあたる内容を解説し、一冊にまとめました。
本年は、関東大震災から100年となる節目の年となります。
激甚化する自然災害、増大する救急需要、大規模・複雑化する対象物など、絶えず社会は変化し続けています。
一方、東京消防庁では、職員の年齢構成の若年化、火災件数の減少に伴う経験不足などから、「現場経験豊富な職員が主流の組織」から「経験値の少ない若い職員中心の組織」へと、転換期の中にあるのが現状です。このような中においても、「指揮能力」、「消防活動能力」、「危機管理能力」といった「現場力」を向上させなければなりません。
災害現場において、指揮本部長は、消防活動の核であり、原動力となります。いかなる事態に直面しても、沈着冷静、旺盛な責任感と確固たる信念をもって部隊を統率し、その職責を最も効果的に遂行しなければなりません。
また、各級指揮者は、命令に基づき、部下隊員を指揮して所要の任務を遂行し、指揮本部長の意図を最も効果的に実現しなければなりません。
「指揮」とは、決断し、実行し、責任をとることであります。「要諦」とは、物事の最も大切なところ。肝心かなめであります。
本書「指揮の要諦」は、署隊長、副署隊長、大隊長、幕僚等が災害現場において状況を把握し、決断し、実行し、責任をとるために最も大切な要点を説明しています。本書の内容を指揮本部長だけではなく、各級指揮者も参考として研鑽を積むことで、指揮本部長の思考を理解し、より良い活動となるよう期待しています。
先人の多くの経験、教訓を糧として、指揮本部長等となる方々の指揮能力向上につながることを願います。
令和5年3月