*パトカーが赤色灯をつけないで尾行し行った速度測定の正確性と適法性(昭60.1.24札幌高裁判決)
*パトカーが赤色灯をつけず、サイレンも鳴らさずに行った暴走車阻止で生じた事故に対する損害賠償責任(平20.7.4最高裁判決)
*交通整理の行われている交差点での緊急自動車(救急車)と普通貨物自動車との衝突事故につき緊急自動車の運転者の過失を認めた事例(平14.3.28千葉地裁判決)
平和な世の中だといわれながらも、緊急自動車のサイレンの音を聞かない日はない。いつもどこかで事故や事件が起こっている。
緊急自動車は、犯罪、火災、交通事故、ガス爆発から、急病人の搬送等に至るまで、昼夜を問わず活動を続けている。
これらの緊急自動車は、その業務の内容が特殊なため、法令の規定の上で、通行方法等について、様々な優先的、特例的な扱いを受けるが、その反面、運転資格、要件、注意義務、違法性阻却事由等についての制約が設けられている。
一般の車両は「緊急自動車が近づいてくれば、道を譲ればよい。」と考えて、それを実行すれば充分であるが、緊急自動車の側に立ってみると「みんなが譲ってくれるので、どんな走り方をしても許される。」と考えるのは誤りで、自らに与えられた権利と制約を完全に理解し実践していかなければ、正しい緊急自動車の運転は望めないばかりか、万一事故が発生した場合の責任は重い。
緊急自動車に関する法令の規定は、必ずしも理解が易しいものではない。学説、判例の類も少なく、そのうえ、緊急自動車に関する特集号的な著書が見られなかったので、緊急自動車の運転に携わる人々は、断片的な知識と職務上のカンによって業務を遂行してきたのが実情ではなかったろうか。
問題が起きなければそれでよいという考え方もあるかも知れないが、モータリゼーションの進展に伴って、社会の構造が車に依存して機能する度合いが高い車社会となり、また、国民の権利意識が高まりつつある今日においては、多少とも疑問のあるような緊急自動車のふるまいは許されないし、また、万一事故を起こせば当然にその責任が問われるのである。
本書は、緊急自動車に関し、法令の規定とその解釈、学説、判例から指定の手続き、運転の適性に至るまでを、この種のものとしてははじめて総合編集し、緊急自動車が健全な社会の維持発展に貢献することを期したものである。