理解困難な犯罪・非行が増加し、処遇困難とされる人たちが増え続ける中で、これらの人たちを適切に理解し、社会復帰にとって有効と思われる処遇を実施するためには、人間行動に関する科学、特に心理学や精神医学の関与がこれまで以上に必要とされることは疑いのないことである。
犯罪・非行という社会的問題には、特に原因や背景を理解することに重点を置く原因論や法律・制度にかかわる刑事政策論と、その人たちを「どのように扱って社会復帰させるか」という現実的な実践との間にギャップを生じやすい傾向が見られる。実践科学としての性格を強くもつ矯正心理学は、それぞれの学問的蓄積を踏まえつつ、矯正処遇の科学化を推進するという役割を果たすことも可能と考えられる。矯正処遇の科学化を図り、有効性を高めるという目的は、矯正心理学のみによって達成されるものではないが、例えば、犯罪性・非行性にかかわる理論的検討、心理学に基盤を置くアセスメントと処遇の体系化、処遇による人間と特性、施設内適応の過程、不適応とその対応、拘禁に伴う心身への影響、再犯要因の分析等は、心理学がより有効に解明できる課題であり、矯正心理学が理論と実践を踏まえつつ貢献できる領域は限りなく広がってきているように思われる。矯正心理学の歴史はいまだ浅く、十分な体系が出来上がっているわけではないが、目覚ましい発展を遂げてきている臨床心理学その他の隣接諸科学の単なる応用ではない、犯罪・非行という人間行動にかかわる独自の科学としての充実が求められている。
本書は、こうした期待にこたえるための一つの試みであり、上巻及び下巻の2冊によって構成されている。上巻は、理論編として総論的、一般的な内容を扱い、実践編である下巻では、より実務に即した具体的内容を盛り込んでいる。
犬塚 石夫
松本 良枝
進藤 眸