全国各地を歩いていると、地域の人々の力というのは、何としたたかなんだろうと思い知らされる。
たしかに、地方が全て元気かと言われればそうではない。田んぼには草が生え、商店街ではシャッターが下ろされ、高齢化の進行は地方にとりわけ早いと喧伝(けんでん)されている。しかし昨今、各地域ではこんな逆境を逆手に取り、あるいは地(ぢ)の素材を再発見することで、地域の活性化に挑んでいる人たちは多いのである。苦労しながらも結構楽しんでいる風情さえ見受けられるのだ。新しい挑戦をする。まちと人々が元気になる。外から人も来るし、自分たちの暮らしも面白くなってくる。その充足感によるものだろう。このしたたかさが素晴らしい。
こうした地域の観光まちづくりの動きを知らない手はない。こうした地域の挑戦を全国の人に知ってもらわない手はない。そう考えて、着手したのが本書である。名付けて「カネよりもチエとセンスで人を呼び込め!」である。
本書は第I部で、各地の観光まちづくりの個性的な取組み例の最新情報を載せた。第II部では、全国の自治体の観光プランの挑戦的な策定例を紹介し、併せて観光プランの策定のノウハウを提示してみた。その際、特に3つの視点に留意した。この本のセールスポイントである。
1つは、全国の情報をできるだけ多く採録しようとしたことである。いささかでも学び得る知恵のある先例であるならば、それを漏らすまいと心した。とりわけ市町村の、小粒ながらもでっかい挑戦例を取り上げることに腐心したつもりである。
2つは、できるだけ最新の情報を採録しようとしたことである。観光は時間との戦いである。人々の観光ニーズは思いの外わがままであり、常に移り変わっていく。昨日求められていたエリアが、今日は人々の足が遠ざかる例も少なくない。それだけに「旬」である事例を取り上げてみた。
3つは、その取組みの情報を、できるだけ生なまの形、すなわち生の人間の、生の言葉で語ることでリアリティを伝えたいとしたことである。観光まちづくりを担う人々の体温を感じることで、直接その人々と地域に触れるチャンスをもってもらえばありがたい。そう念じたからでもある。
全国各地で今、地域活性化のための新しい風が吹いている。観光という視座に立っての、様々な挑戦が行われている。その風を集めて強い力に変えていけたら、これは一つの素晴らしい社会革命になるのではないか。そう念じつつ筆を進めたものである。
平成23年4月
嶋津 隆文