平成21年4月から施行された「被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則」による被疑者取調べ監督制度は、一連の取調べ適正化施策の根幹とも言うべきものである。これは、警察部内のチェック機能を発揮させることにより、不適正な取調べを未然に防止せんとするものであるが、全く新たな制度の導入であるため、第一線では戸惑いが生ずるおそれなしとしない。
本書は、第1編で警察捜査における取調べを巡る昨今の情勢や本規則の制定の経緯を詳細に論じており、取調べが過去最大とも言える変革期を迎えている中で、どのように取調べ適正化施策が進められ、また、被疑者取調べ監督制度が創設されたかを理解することができる。第2編では、規則を逐条的に解説するとともに、都道府県警察からの質疑等を踏まえ、運用上の留意事項等を網羅的に記載しており、実際に制度の運用に当たる方にとっても非常に有益なものとなろう。
平成21年4月
前警察庁刑事局刑事企画課長(現・兵庫県警察本部長) 北村 滋
被疑者取調べ監督制度の導入は「警察捜査における取調べ適正化指針」の眼目であるが、この適正化指針は、裁判員制度の導入を目前に控えた時期に、警察による被疑者取調べの在り方が問われる深刻な無罪判決等が相次ぎ、取調べを始めとする警察捜査における問題点が厳しく指摘され、警察捜査に対する国民の信頼が大きく揺らいだことを直接の契機として策定されたものである。しかし、その淵源は、「取調べ全過程の可視化」論が提起する課題に対し、治安責任を預かる警察として処方箋を示さなければならないとする強い意志にあるといえる。被疑者取調べ監督制度の導入を始めとする取調べ適正化施策が、被疑者取調べの一部録音・録画の実施とともに、一連の改革を担うものとして位置づけられていることがその証左であろう。
本稿では、このような視点に立ち、被疑者取調べ適正化のための監督に関する規則の制定の経緯をできるだけ詳細に論ずることにより、我が国における被疑者取調べの重要性を改めて浮き彫りにするとともに、「取調べ全過程の可視化」論が真に治安維持に資するものと言えるのか改めて考える機会となればと思っている。また、逐条解説においては各条文の趣旨や内容を詳細に解説することはもちろん、制度施行の準備過程で都道府県警察から寄せられた様々な質疑を基本とし、制度運用上必要な事項をできるだけ網羅的に記述することとした。
平成21年4月
前警察庁刑事局刑事企画課理事官 重松弘教
警察庁刑事局刑事企画課付 桝野龍太