◆◆待望の改訂版◆◆
「擬律判断」や「捜査の指針確立」に資する実戦的解説書
初版以来、初学者にも分かりやすく、実戦で使いやすい構成を追求。
捜査実例とアドバイスを多数紹介し、「捜査マニュアル」として、捜査幹部のハイレベルなニーズにも対応。
1 はじめに
私は、1998(平10)年12月に『実例中心 刑法総論解説ノート』を上梓し、これを原型として2009(平21)年11月に『捜査実例中心 刑法総論解説』を発刊し、さらに2015(平成27)年4月、これを改訂した『捜査実例中心 刑法総論解説(第2版)』を発刊してきた。
第2版を発刊してから7年が経過し、刑法総論に関する新たな判例・裁判例も蓄積したので、これを可能な限り反映させた第3版を発刊することにした。
2 本書の目的
本書の目的は、判例・実務の考え方に沿って、具体的事例に即しながら、刑法総論の理論・知識を分かりやすく説明し、初学者であっても、最終的に、相当高度な刑法総論理論を理解できるようにするということである。
本書の主たる読者である捜査官等に即して言い換えると、本書の第1編「刑法総論学習に関するQ&A」で述べているとおり、「刑法総論理論を、捜査官の日常捜査実務に真に役立つ手順書(マニュアル)としてとらえ直し、捜査官に分かりやすく提供する」ことでもある。
難解な事項を分かりやすく説明するために、ある程度の学習を終えた者にとっては当然と思われるような入門的・初歩的事項についても省略しないで、可能な限り、具体例を示しながら丁寧に説明するようにした。そのため本書のボリュームは厚くなっているが、一般の教科書に比べて相当に読みやすいものになっており、比較的短時間で最後まで読み終えることができるはずである。
3 本書が想定する読者
本書が想定する読者は、従来と変わらない。
まず①犯罪捜査に関わるプロフェッショナルの人たちである。具体的には、警察官、特別司法警察職員、検察事務官などであって本格的に刑法総論の勉強を始めたいと考えている人たちや、昇任・選考試験のために刑法総論の知識をまとめようとしている人たち、あるいは、ある程度の捜査実務の経験を積んだ警察や特別司法警察の捜査幹部や検察官であって、更なる実力向上を図りたいと考えている人たちである。
わが国では、今日も、特殊詐欺などの実態解明が困難な組織的犯行が横行し、他方、平成21年(2009年)に導入された裁判員裁判での説得的な立証につながるような効果的な証拠収集の実施が求められている。そのため、捜査機関は、犯罪の実体解明と的確な証拠収集の実力を一層高めることが期待され、その責任は重大である。本書が、捜査機関のレベルアップに少しでも役立つことができれば幸甚である。
次に②刑法総論を捜査実務と関連づけて深く学習したいと考えている法曹、司法修習生、法科大学院学生、法学部学生等も、重要な読者と想定している。これらの人たちにとっても、本書は極めて有益と考えるからである。
4 執筆方針
上記目的を果たすため、次のような方針で執筆するよう努めた。
① 実務との関連性が希薄な抽象的事項の解説は割愛するが、実務上重要なものはハイレベルな事項も含めて「コラム」などで解説する。
② 抽象的説明にとどめず、実例に即した具体的な解説になるように努める。そのため、判例に基づく事案だけでなく、必要に応じて、筆者が検察官時代に遭遇した捜査実例も可能な限り紹介するようにした。
③ 解説は、可能な限り分かりやすいものにする。そのため、重要事項をまとめたpoint欄を設けるなどして解説の一覧性を高めるなどした。
④ 捜査初動段階における捜査の方向づけなど捜査の指針となるべき事項も示す。そのため、解説に関連する捜査遂行上の留意点などを「アドバイス」欄で示すようにした。
5 今回の改訂のコンセプト
今回の改訂のコンセプトは、主として次の2つである。
① アップデート
最新の捜査実務における必要性や、最新の判例・学説の状況も踏まえて、新しい判例や裁判例を紹介し分かりやすい解説を追加記述し、また、重要な捜査事項(たとえば、特殊詐欺に関する捜査上の留意点)について、分かりやすい解説やアドバイスを補充するなどした。
② スリム化
1998年刊の前記『刑法総論解説ノート』は全体で680頁だったが、2015年刊の第2版では全体が792頁と増えてしまい、本書の姉妹書として発刊された『捜査実例中心 刑法各論解説』(司法研修所検察教官室著、2020(令和2)年)が全体で392頁というコンパクトなものであるのに比べて本書の「肥満児ぶり」が気になっていた。
そこで、今回の改訂では、現役検察官などからのアドバイスも踏まえながら、現在では記述の必要性がそれほど高くない論点に関する解説や、純粋な学説紹介のような解説などは、思い切ってカットすることにし、大胆なコンパクト化を図った。
6 本書の利用法
本書の利用法であるが、初学者は、設問の順序に従って、入門から始まって、犯罪論、基本原理、罪数・刑罰論と読み進めていただきたい。途中分からないことがあっても、一応最後まで読み終えてから再読すれば、疑問が解消することも多いと思われる。ある程度、学習が進んでいる人は、入門編を省略して読み進めていってもよいし、目次によって、自分の苦手としている事項を拾い出して学習し、参照記号(⇒参照)などを手掛かりに学習範囲を広げていくやり方を取ってもよいであろう。捜査に関わる者は、刑法総論上の問題点を含む捜査事案に接したときに、目次や事項索引で関連事項を調べるということが実際的であろう。
7 終わりに
前記『実例中心 刑法総論解説ノート』発刊時に、私の元上司であった亀山継夫先生(当時最高裁判事、元名古屋高等検察庁検事長)から、捜査官が刑法総論を学習することの意義などについて示唆深い内容の寄稿を頂戴し、『捜査実例中心 刑法総論解説』では、その抜粋を「捜査官と刑法総論」の表題で掲載させていただいてきたところ、本書でも、次頁に同抜粋を掲載したので、熟読の上参考としていただきたい。
本書の読者が、本書を十二分に活用し、それぞれの目的を達成し、それぞれの分野で活躍されることを心から祈念する。
なお、本書の解説内容のうち、意見にわたる部分は、私の個人的なものである。
2022年8月
幕田英雄