本書は、交通事故統計データの主要なものをトピックスごとに選んで、それをグラフや表で示して、事故の実態と原因を解説した本です。どこから読んでも、交通事故防止のヒントがきっと得られます。
事故統計データは、事故を学ぶための情報の宝庫です。事故を学ぶ方法には、他に事故現場を観察したり、事故の当事者に話を聞いたりして事故事例を体験的に学ぶ方法がありますし、事故関連の本や記事を読む方法もあります。このうち体験的な学びは誰にでもできることではありませんし、立ち会える事故はそれほど多いわけではありません。事故関連の本を読むことはもちろん勉強になりますが、その前に交通事故統計を眺めて事故の姿を知っておくことが大切です。
なぜ交通事故統計が重要かといえば、表やグラフで示された交通事故統計は、交通事故という出来事を様々な角度から量的に把握し、分析するための手法だからです。表やグラフは客観的に示されるため、仲間内で知識が正確に共有できますし、相手に事故を説明する場合にも説得力を持ちます。何よりも、安全対策を立てる上での、正しい現状認識のベースとなります。
本書では、事故データの中から、事故の姿を捉えたり、事故の原因を知ったりするのに欠かせない項目(例えば、道路形状、年齢、通行目的、法令違反など)を選んで、その項目を集計したデータをグラフや表で示しました。また、その上で事故の実態や経年変化、その背景・理由などを交通心理学や他の交通科学の知見を交えて解説しました。できるだけ「交通統計」や「交通事故統計年報」に記載された集計データを用いましたが、そこにないデータも使いました。交通事故総合分析センターの統計表データやそこの集計システムを用いて独自に統計分析したデータ、交通事故分析関係の調査報告書のデータなどです。
「交通統計」などの統計書は、ほとんどがクロス集計表から構成されています。そのため数字が苦手な方には、とっつきにくいものかもしれません。本書ではこの点を解消するために、統計書の表を使った場合には、それを加工した上でグラフ化し、事故の実態を視覚的に明らかにしました。また、表で取り上げられている事故調査項目の定義を知らないと、ひとりよがりの解釈になりがちです。そこで項目の定義を明らかにした上で、図表が示す事故実態の意味を解説しました。
交通警察に携わる方だけでなく、地方自治体や学校の交通安全担当者、自動車教習所の指導員、企業の安全運転管理者や運行管理者など、多くの方に読んでいただき、事故防止に役立てていただければ幸いです。
日野キャンパスにて 2014年初春
松浦 常夫