軽犯罪法の正しい知識と理解が身に付く 若手からベテランまで頼りになる充実の1冊
本書は,犯罪捜査に携わる警察官等の司法警察職員及び法職を志す学生を対象に,軽犯罪法について解説したものです。
最近の犯罪情勢は,我が国を取り巻く政治・経済・社会等の諸情勢を反映して一段と複雑・巧妙化,悪質化の傾向を強め,極めて憂慮すべき事態に至っています。
取り分け,社会の耳目を集める凶悪重大事件,外国人集団等による組織的犯罪,市民生活に直接関わる路上強盗,住居侵入,窃盗,架空請求等詐欺事犯などが多発して国民の肌で感じる治安は確実に悪化しており,我が国が誇る「治安の良さ」という安全神話も徐々に崩壊しつつあるのではないかと思われます。
このような悪質犯罪を防止し,安全な社会を実現するには,発生した悪質犯罪の捜査処理はもとより,これら犯罪の芽を早期に発見し,速やかに摘み取ることが重要であります。そのために,警察官等の司法警察職員に与えられた「武器」の一つが軽犯罪法なのです。
軽犯罪法は,軽微な犯罪を処罰することのみを目的とした法律ではなく,そのことによって刑法犯等のより悪質重大な犯罪の芽を早期に摘み取ることを目的とした法律です。したがって,これを積極的に活用して悪質重大犯罪を未然に防止し,最大の人権擁護ともいうべき社会秩序の維持を図ることが肝要です。
そして,そのためには,この「武器」の性能と使用方法を知ること,すなわち,軽犯罪法の正しい知識と理解が不可欠です。
また,軽犯罪法は,日常生活における身近な犯罪行為を規定していることから,その規定の解釈に当たっては,具体的事例を想定しやすく,法職を志す学生にとって,法解釈学の基本を理解し,法的思考力を鍛えるための最良の教材となるものです。
そこで,本書においては,学問的水準を下げることなく,軽犯罪法に規定された全ての罪について,実務に直結した解説をするとともに,実務の便宜に供するため,「判例」,「質疑応答」及び「犯罪事実の記載例」を登載し,また,向学心に応えるため,第1章において軽犯罪法の沿革等について詳述するとともに,巻末に「軽犯罪統計」及び「軽犯罪法と警察犯処罰令の対照」を付しました。もとより,意見にわたる部分は,私の個人的見解です。
なお,本書は,株式会社日世社から発行されていた拙著『実務のための軽犯罪法』を,その後の関係諸法令の改正及び判例の動向を踏まえ,全面的に改訂したものです。
平成30年2月
井阪 博