刑事法の中枢テーマを俯瞰する、大人気書籍の改訂版!
基本構造から実務の考え方まで、根幹をしっかり理解!
※本書は、平成26年2月発行の『ハンドブック刑事法―罪と罰の現在―』を、最新の内容、より見やすいレイアウトに改めて発行するものです。
特設サイト 「著者からのメッセージ」 に、本書著者 前田 雅英先生が 「はしがき」 には収まりきらなかった想いを寄稿いただいていますので、こちらもご覧ください。
本書は、警察官をはじめとする、日本の刑事司法実務に携わられる方々に、「現在の刑事法」の全体像を理解していただくためのものである。版を改めた理由は、主として法改正、新判例の登場にあるが、社会の大きな変化の兆しが、刑事法解釈の基本的部分にも影響を及ぼしそうだと感じたからである。
ロシアのウクライナ侵攻という世界史的事件が、法理論にどのような影響を及ぼすかという点は、もう少し時間をおいて分析・評価しなければならないが、コロナ禍とそれに結びついたデジタル化の加速やサイバー社会の拡がりは、刑事法の解釈にも大きな影響を及ぼすと思われる。具体的には該当箇所で講じるが、はじめに一点だけ申し上げておくとすれば、ネットによるインターナショナルな情報の共有は、各国の「相違」をより意識させることになったということである。感染者数がかなり生じているにもかかわらず規制を緩める国もあれば、
その意味で、「日本の刑事法の特色」も、日本人の国民性に依拠していることは疑いない。明治期に、西欧をまねて導入した刑事法制度も、百年以上の流れを経て、日本の文化によって動かされてきた。もとより、刑事法制度も、社会の変化に合わせて不断に動いているものであり、常に生起する具体的事件によっても、変化し続けていく。変化の方向性を考究することは必要であるが、ただ、「どこの国の刑事制度が正しいか」という議論は、「どの国のコロナ対策が最も正しいか」という議論と同じで、重要ではない。
本書は「刑事専門家に対する、個別問題の具体的解決案」を示すためのものではない。「全体」を俯瞰した上で、現実の問題を擬律していただくことが何より大事だと考え、「筋が分かりやすいこと」「短時間で読み切れるもの」「現在の動きを反映したもの」を重視して執筆した。
古い知識は、無駄であるというより、害悪になることに注意して欲しい。学ぶべき「法」も判例も、動いているのである。ここ20年来、学説・理論が急激に重視されなくなり、現実にいかなる問題が起こり、実務がいかに対処しているかを知ることの重要性が強調されるようになった。そのような、実務の対処は、「正しい学説」が先にあって、それに従った結果であるとは、必ずしもいえなくなった。
本書は、一通り刑事法を勉強し、さらには、実務でその運用に携わっておられる方にも「全体像」を俯瞰していただくためには有用だと考えているが、大学生や高校生等も含め、より多くの刑事法に関心のある皆様に読んでいただき、警察活動をはじめ、検察、裁判、弁護の活動の意味を知り、日々生起する刑事事件の処理についても、自分の頭で判断するために役に立てばと期待している。
2022年5月
前田 雅英