テロ等大規模災害時における多機関連携・現場対応解説書の決定版!
太字:代表者
近年、イスラム過激派によるテロ災害、とりわけ一般市民を狙った無差別テロが世界各地で発生しており、我が国においても、いつこうしたテロ災害が発生しないとも限らない情勢となっている。
我が国では、2020年に東京オリンピック・パラリンピック、その前年の2019年にはラグビーワールドカップ2019大会を控えており、こうした世界中のメディアの注目の的であるビッグスポーツイベントが、テロリストにとっても自らの政治的あるいは宗教的立場をアピールする格好の場ともなっている。過去のオリンピックの歴史を見ても、ミュンヘンオリンピックでの選手団を人質としたテロ事件やアトランタオリンピックでの爆弾破裂事件の発生など、オリンピック等のビッグスポーツイベントを舞台としたテロ事件発生の蓋然性は高いといえよう。我が国ではイスラム過激派によるテロ事件はいまだ発生していないものの、海外では既に邦人を標的としたテロ事件は何件も発生しており、また、イスラム過激派も我が国を名指しでテロの対象国としている。
これらに加え、北朝鮮は、度重なるミサイルの発射実験や核実験を重ねており、その言動とも相まって我が国の安全にとって重大な脅威となっている。
こうした情勢下において、我が国においてもCBRNe(化学兵器、生物兵器、放射性物質、核兵器、爆発物)による事案発生のリスクは高まっており、いつ起こるか予断を許さないCBRNe事態の発生に備えて不断の努力を続けていくことは極めて重要である。
我が国は、既に世界に先駆けて化学兵器を使用したテロである松本サリン事件及び東京地下鉄サリン事件を経験した。事件発生時の混乱と体制、装備面での遅れの反省から、爾来、警察、消防、自衛隊、地方公共団体、医療機関などの関係機関の努力により、装備面、運用面での体制の強化が行われてきた。また、国民保護法の制定や国がリードしてのCBRNeの脅威を想定した国民保護訓練が地方公共団体や関係機関とともに行われてきたが、その訓練での課題の一つが関係機関の連携の鍵となる現地調整所である。
CBRNe事態の発生を受けて、一刻も早く事態を掌握し、関係機関の迅速な初動活動や連携を効率的に行うためには、現地調整所がどのような役割を果たすべきなのか、現地調整所では関係各機関は何をなすべきなのか、現地調整所の運営はどうあるべきなのか、現地調整所と国の危機管理センターとの関係はどうあるべきなのかを知るとともに、その適切な活動を実現できるかどうかは、国及び現地で迅速かつ効率的な事態対処活動を行うためにも避けて通ることのできない課題である。
いつ起こるか分からない未経験の緊急事態が発生した場合に、適切に対処することは極めて困難なことのように思えるが、唯一この困難な事態に立ち向かう方法がある。その一つは、未経験の緊急事態であっても、それに遭遇したときには自らが何をなすべきかをあらかじめ学んで知ることであり、もう一つは、緊急事態が発生したことを想定して実際に訓練を行うことである。
本書は、CBRNeの脅威を知るとともに、事態発生に際してそれぞれの関係機関が行うべき役割、そして、関係機関の連携と効率的活動を実現するための現地調整所のあり方を学ぶ上で極めて有益かつ有意義な書である。
読者各位が、本書から、CBRNeの脅威発生時に自らが行うべき役割を確認するとともに、現地調整所の役割を理解し、実際の訓練の場で反復実践して、いつ起こるとも知れないCBRNeの脅威に備えていただくことを切に願うものである。そして、訓練は実戦のごとく、実戦は訓練のごとく行われることを心から期待するものである。
平成30年4月
元内閣危機管理監・東京大学客員教授
伊藤 哲朗