捜査で真に役立つ、法律実務家のための刑法各論解説
適切な職務を遂行したい法律実務家にはもちろん、法曹を目指す法学部生・法科大学院生にもおすすめの解説書。
本書は、平成29年6月から令和元年5月までにわたって、司法研修所検察教官が執筆して月刊誌「捜査研究」(東京法令出版)にて連載した「刑法各論」に加筆・修正を加え、さらに通貨偽造罪、犯人蔵匿罪・逃走罪及び競売入札妨害罪に関する設問を新たに追加した上、単行本化したものである。『捜査実例中心刑法総論解説(第2版)』(幕田英雄著、東京法令出版)は、「刑法総論理論を、捜査官の日常捜査実務に真に役立つ手順書(マニュアル)としてとらえ直し、捜査官に、分かりやすく提供する」(はしがき)ことを目的として平成21年11月に発刊され、捜査実務に従事する警察官や検察官等に好評を博しているところであるが、本書は、その刑法各論版となることを意図して執筆・発刊したものである。捜査実務において、刑法犯につき的確な証拠収集を行うためには、事案ごとの個別具体的な事実関係を前提に、刑法が規定するいかなる犯罪の構成要件に該当し得るか、当該犯罪の構成要件該当性を判断する上で問題となる点は何かについての検討が必要不可欠であり、そのためには、刑法総論の基本的理解に加え、刑法各論に関する知識、とりわけ判例の立場についての正確な理解が求められる。そこで本書においては、刑法が定める犯罪類型のうち、捜査実務上扱うことが多い犯罪類型を取り上げるとともに、これら各犯罪類型特有の問題点に焦点を絞った上で、理論上の問題点や捜査上の留意事項について、判例の考え方を踏まえながら解説している。
もとより、その内容の質や充実度において、幕田氏の名著に及ぶべくもなく、本書発刊の目指すところに沿ったものとなっているかについては読者の批評を仰ぐほかないが、司法研修所で教鞭を執っている検察教官が、それぞれのテーマにつき、重要な判例に基づいて、各自の検察官としての実務経験なども踏まえつつ執筆したものである。本書が、捜査官が今後犯罪捜査を円滑に行うための一助となれば幸いであるし、捜査実務家以外の方にとっても、「捜査実務家から見た刑法各論」が窺い知れて有益なのではないかと考える次第である。なお、当然のことながら、文中意見にわたる部分は、各執筆者の私見であることを付言しておく。
2020(令和2)年4月
司法研修所検察教官室 石山宏樹