災害時の情報収集ツールとして、次なる活用へ!
官民問わず、ドローンを使って災害情報を収集しようとする方、その支援をする方に最適!
災害に強い社会を作らなければならない。本書を手に取る全ての方に通底する思いであろう。この本は、その思いを社会の中で形にする一助とすべく、ドローンを題材として、災害対応への有効な活用方法を模索するものである。
ドローンは他の手法で代替し難い、優れた情報収集ツールである。これが広く普及すれば、大規模災害時の情報収集インフラにもなり得る。それこそが、本書の目指すところである。
しかし、単にドローンというツールが優れているだけでは、これを実現することはできない。例えば、目の前にあるPCは、それを使う人のスキルや目的意識によって、Webニュースを見るだけの端末にもなるし、高度な業務ツールにもなる。人間が使い方を理解しなければ活用できない点は、多くのツールに共通の本質である。
ドローンの操縦を学んだだけでは、インターネットを眺めているのと同じレベルであり、おそらく、すぐに飽きてしまうだろう。そうではなく、ドローンで撮影した映像や画像から、現場活動に有用な情報をいかにして読み取るか、という点に注目することが大切である。本書の言葉ではこれを、インテリジェンスの抽出と呼んでいる。
ドローンの仕事は撮影までであり、インテリジェンス化は人間の仕事である。情報収集ドローンの活用には、この両方の技能を高めることが求められるのだ。
本書は、二部構成とした。第Ⅰ部のテーマは、「情報活用能力を構成する三要素とその実装」とした。情報収集ドローンを飛行させる際の根本的な問いとして、「なぜドローンを飛ばすのか?」「それはドローンで見えるのか?」「広域災害にいかに立ち向かっていくか」の三つを掲げ、その問いに答える形で章を構成した。最後の第4章には、その具体的な実装方法の道筋を示した。中でも、第2章の2.1.1「分解能と識別レベル」は、ドローン運航者に限らず、オルソ画像や地図情報を扱う際の、最も重要かつ基礎的な内容である。災害対応にあたる全ての人が、共通理解として把握しておきたい内容である。
第Ⅱ部には、安全かつ高度なドローン運航のための基礎技術をまとめた。運航の安全を高め、より高度に空間情報を活用するためには、関連法規、機体技術、情報の判読技能など、各分野の知識を得て、人間のなす仕事の質を高めることが求められる。
附録として、オルソ画像作成の原理を、少々専門的な観点から解説した。必要に応じて各項目をご参照いただきたい。
1995年兵庫県南部地震、2011年東北地方太平洋沖地震、2019年台風第19号など、我々がこれまで経験してきた幾多の大規模災害では、組織の枠を超え、一つのチームとして活動ができなくては、とても立ち向かえないことが明らかとなってきた。このとき、活動の根幹となるものが情報共有である。ドローンが情報収集インフラの一つとなり、関係機関で速やかに共有されることにより、互いに必要な情報を補い合い、全体としての災害対応が推進される。情報共有の推進は、チームの中でのパス回しのようなものだ。こうした活用のあり方は、ドローン活用の事始めから意識しておきたい。そして、平時に使わないものは、有事の際にも使えない。「ドローンの日常化」(Ⅰ-4.1.1 参照)を進めつつ、一歩一歩、着実に実装していきたい。
本書は、官民問わず、ドローンを使って災害時の情報活動をしようとする方、その支援をしようとする方に向けて執筆した。公共の安全を守る公的機関は、社会の災害リスクの多様化に応じて、その能力を高めなくてはならない。また、民間事業者等は、直接的にも間接的にも、災害時の空間情報の提供や活用、公的機関の支援において、その活躍が期待される。そして今後は、そういったCSV(社会的な共有価値の創造)の活動が評価される時代となる。
現在、空間情報技術(マッピング)の基礎を理解した現場従事者は多くはない。そのため、ドローンを使った情報活動のシーンでは、そうした分野を学ぶことにより、現場を先導することができる。ドローンの運航や情報の利活用には老若男女の体力差は不問であり、多様な立場の現場従事者が参画できる領域でもある。来る国難級の災害に立ち向かうために、これから共に学んでいこう。
令和2年4月
内山 庄一郎