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概  要

 "武力攻撃事態、大規模テロ等からいかにして住民を守るか"
 国民保護法制において、国、都道府県、市町村、その他関係機関等が、どのような場面で、どのような役割を担うことになるのか、国、地方公共団体の事務を解説。 また、諸外国における国民保護の実情も紹介。巻末に詳細な事項索引を登載。




はじめに(抜粋)

 危機管理業務の幅が広がりつつある。幅が広がりつつあると言っても、実はその課題が最近急に出てきたわけではなく、実際には以前からの課題であったものが、最近の情勢の変化の中で顕在化してきたと言った方が適切なのかも知れない。
 例えば、「消防」の業務に限ってみても、基本的に、自然災害や人的災害、火災対応、救急救助など国民の生命財産を保護する広い分野にわたっていることは今更指摘するまでもないことだが、実はこのことは、法律の上でもきちんと位置づけられていることは意外に知られていない。
 消防組織法第1条では、「消防」について、「国民の生命、身体及び財産を火災から保護する」一方、「水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害に因る被害を軽減することを以て、その任務とする」と定めている。消防という言葉で表現される任務は実に広いものであり、「消防」の言葉は、実は「防災」も含む幅広い意味をもともと持っているのである。こうした言葉の意味を改めて「顕在的」に考えることも必要なのである。
 2001年9月11日の米国同時多発テロが起きて以降は、従来の地方公共団体や消防の任務の性格に、新たな局面を帯びた感がある。大規模テロ対応という仕事である。 地域住民が現実に被災する状況を目の当たりにして、地域住民の安全を確保すべき地方公共団体が、「これはテロ災害だから自分の仕事ではない」と言って責任放棄できるわけはないのである。
 大規模テロよりも更に継続的に大きな被害が想定されるのが、外国からの武力攻撃を中心とする「有事」への対応である。現在、有事法制の基本的枠組みが定まり、その大きな柱としての国民保護法案が国会に提出され、議論されている。国民保護法制の中で位置づけられる政府の役割はもとより大きなものがある。いわゆる「外交努力」の失敗の延長線上としての武力攻撃であるとするならば、その対応責任は国の責務であると考えるのが当然であるからである。その一方で、地方公共団体の責務も大きい。地域社会において「住民の生命、身体、財産を保護する使命」を有する立場から、「必要な措置を実施する責務」があることに異論を挟む人はいないはずである。
 平成15年6月に成立した武力攻撃事態対処基本法の中では、今後、更に整備する法制について述べているが、その大きな柱の一つとして、警報の発令、避難の指示、被害者の救助、消防、施設・設備の応急復旧、保健衛生の確保、社会秩序の維持、輸送・通信、国民生活の安定、被害の復旧などの武力攻撃から国民の生命、身体及び財産を保護するための措置、あるいは武力攻撃が国民生活、国民経済に及ぼす影響を最小限にする措置を盛り込んだ法制を整えるとしており、これが、いわゆる国民保護法制と呼ばれるものである。
 有事法制の議論の中で、どのような国民保護法制を日本に受け入れ、実際にどのような運用を行っていくべきなのか、これから英知を結集して、検討していかなくてはならない。先にも述べたように、我が国にはこの分野の蓄積がないのである。アカデミズムの世界に多くを期待することはできない。我々自身、地方公共団体、消防防災関係者をはじめとして、皆で共同して実効性のある仕組みを整え、準備していかなくてはならない。政府自体にこれまでの蓄積がないのであり、現実に地域社会で対応を迫られる地方公共団体の責任者が、当事者意識を持って主体的に参加していくことが不可欠だと考えられる。




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