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第4巻 再建・倒産編   編集 澤野正明
目次
 1.倒産処理方法選択のプロセス(村松謙一)
 2.倒産処理の依頼を受けた弁護士のなすべきこと(近藤泰明)
 3.私的整理(岡野真也)
 4.更生会社における管財人の業務遂行の実例(田中寿一郎)
 5.金融機関等の会社更生手続(竹野下喜彦)
 6.民事再生法@−相談・受任から再生申立・開始決定前まで(澤野正明)
 7.民事再生法A−再生手続開始決定後の手続(土岐敦司)
 8.会社整理(佐藤彰紘)
 9.破産@ (松田耕治)
10.破産A−管財人の換価業務(卜部忠史)
11.破産B−破産管財人の職務(岡 伸浩)
12.特別清算(武内秀明)
13.倒産と税務(松田耕治)
14.国際倒産法(佐藤りか)
15.個人再生手続(内藤順也)


編集にあたって
 バブル経済の崩壊後、現在に至るまで日本経済は痛んだ過去を清算し、新秩序を模索する激動期にある。これに対応した倒産・再建法の分野の法整備としては、平成12年4月に原則としてDIP型(債務者が経営に留まりながら倒産手続を進める型) で再建を行う民事再生法が施行され、その後、膨大な預金者を抱える銀行など金融機関の更生手続を容易にするために設けられたいわゆる更生特例法が施行され、その適用範囲が保険会社(相互会社) にも広げられ、近時、事業価値を有するが自力再建が困難な企業で法的整理に向かない場合に利用されることが想定される「私的整理に関するガイドライン」もとりまとめられ、現在は会社更生法の改正作業が進行しているという状況である。大型・中型倒産案件対策の一方で個人再生手続や少額管財手続などにみられるとおり、個人・零細レベルでの経済再建についても法整備が進んでいる。弁護士業務に従事していると、倒産法の分野を専門にしているか否かを問わず、個人から、会社から、債務者から、また、債権者から経済活動に伴う様々な危急時に相談を受ける。したがって、倒産・再建法の分野の法規制に対する知識は弁護士にとって必須のものである。

 本巻における各事例の解説の論稿には、本巻の目的に沿って、それぞれの事例分野について経験のある弁護士により、具体的な事例に基づいてその種の事件を受任した場合の問題点及び解決策の見つけ方が記載されている。また、単に論点・争点についての判例・学説の分析ではなく、それらを踏まえての実務的な弁護士業務の進め方、また、既に発生した紛争事例については訴訟実務の観点から主張・立証の方法の解説もなされている。それぞれの事例分野につき実際の業務を経験している弁護士によるこれらの解説事項に留意して本書を読んでいただくことにより、いわゆる若手弁護士を含めたその事例分野の経験がない弁護士にとって、業務を円滑に進めることができるようになると思われる。

 また、契約書の作成や不良債権買取・M&Aなどに際して実施される法的精査(デューディリジェンス) においても当該企業若しくは取引先などの倒産時の法的帰趨が重要な判断要素となる。すなわち、契約書の作成にあたっては、相手方が倒産した場合の規定や倒産に瀕した場合に契約関係から安全に離脱できる方法が常に問題となるし、不良債権買取やM&Aの場合には債権や企業価値の評価に取引先の破産、特別清算、民事再生、会社更生などの手続が影響してくるからである。したがって、倒産処理を自ら手掛ける弁護士のみならず、上記のような作業や一般の会社法務に従事する弁護士にとっても倒産・再建手続に関する法的知識と実務上の処理に関する知識は重要である。

 いわゆる倒産処理は、従来、個人の経済的な破綻処理とか、企業の経営失敗の後始末といった後ろ向きの意味合いでとらえられることが多かったが、現代社会においては、倒産・再建の法的処理は経済活動において一定程度発生する不可避的な事象であることを理解し、むしろ企業や個人の経済的再建、再出発へ向けての処理としての意味合いに重点をおいて理解するべきであると思う。

 本巻のねらいは、弁護士経験の浅い方や専門分野の異なる実務を行っている方及び会社法務に携わる方々を対象に筆者が実際に取り扱った事件をもとにこれを単純化した事案を想定して、当該事案の相談を受けた弁護士としてそのとるべき行動や判断、果たすべき役割等を具体的に考えることにより、法的な知識を得るとともにその仮想体験を通じて企業の再建や倒産処理のダイナミズムを学んでいただくところにある。なお、実際の倒産・再建案件処理にあたっては、正確な法的知識と同時に当該相談者のおかれている環境に対する理解も重要になってくる。特に企業が相談者である場合、当該企業の経営環境、例えば取引先との関係や金融機関の対応などに対する理解がその後の処理方針の決定に重大な影響を与えることになる。その意味で相談者が従来からの顧問先であるような場合には、その業界事情などが分かり適切なアドバイスをしやすく、また、相談を受けた弁護士が金融機関との交渉につき経験が豊富な場合には、その反応に対する予測がより正確にできる。読者が実際の処理にあたって、相談者の業界実務についての知識の不足や倒産・再建処理についての経験の不足を実感した場合には、虚心坦懐に依頼者から業界実務についても事情を聴取したり、倒産・再建手続に明るい周囲の先輩弁護士に助言を求めることをためらうべきではない。

2002年2月20日  
澤野正明