コミュニケーションの多くはリアルタイムで行われ、「話す」「聞く」が主体となります。その場で相手に自分を「理解してもらい」、相手に気持ちよく「話をさせ」、「質問し、聴く(積極的に関わる)」ことが必要です。
ベテランや一流の指揮官の方々が書かれた書籍を読むと、「取調べ」や「職務質問」も、被疑者等とのコミュニケーションが重要であることに突き当たりました。また、相手に関する事実、関連性といった事前情報の準備が重要です。それらの情報を活用して、相手をプロファイリングし、言語以外の非言語行動を見ることによって「ウソ」を看破することができるのではないか。 もちろん、「クロ」にするということだけではなく、その場から逃れようと捜査官に迎合するような「ウソ」もあり、そうした場合には「シロ」にすることにも分析活用できるものにしたいと考えました。
平成26年2月
江崎 澄孝・毛利 元貞
「何という大それたことを」
これが本企画の素原稿を読んだ私の感想でした。
現行犯や犯罪実行時の目撃証言があるなどの一部を除き、その犯行が誰の仕業であるか全く分からない状態で、犯罪捜査は開始されます。
つまり、事件現場の観察や事件関係者からの事情聴取、現場付近の聞込み等によって、有形・無形の証拠資料などを収集して、容疑者を浮上させ、事件と人(犯人)とを結びつけていきますが、一つとして容易なものはありません。中でも難しいのが被疑者の取調べで、辛く苦しかった過去の体験を思い出します。
だが、取調べは事案の真相を究明するために極めて重要で、凶悪な強盗、殺人事件や、巧妙な知能犯罪、暴力団組員等による組織犯罪などの難事件を数多く解決しています。また、事件によっては、例えば汚職事件のように、被疑者がなぜ金品を渡し、また受け取ったか、心の中を審らかにしなければなりません。すなわち、真相究明には被疑者の供述を得ることが大切で、その陰には、多くの捜査官の苦労、研鑽、努力があり、いまも困難なその任務に当たっている捜査官がおられます。しかも、このところ、可視化をはじめ、取調べについて多くの問題が提起されているところで、さしたる経験等がない私などが軽々に論ずるべきではないと思ってきました。
その取調べについて、捜査経験の少ない元警察幹部と、コミュニケーションの実務家(対話力トレーナー)が取調技術を語るというのには、驚かされました。その上、編集担当者から、本企画に私の意見を求められたのには驚愕するばかりで、当然としてお断りを申し上げました。
しかし、他人の意見を聞くのは大切なことです。また、経験がない又は少ない人の意見を全面的に否定、排除すべき理由はないと考えます。お二人がそれぞれの専門的見地から述べられている中には、被疑者はそう簡単には自供しない、そのような取調べでは真相を明らかにすることは困難だと思える部分もあります。が、反面において、なるほどと頷かされる質問時のことば遣い、質問方法や、人の動き、心理の変化など感心させられる部分が多々あります。
そこで、危うさを感じながら、問われたことについて私なりの意見を述べさせていただくことにいたしました。
黒木 正一郎