地域の魅力を語るストーリーを、国が認定する新たな制度=「日本遺産」
本書では第2弾認定の19地域にまつわる、歴史的経緯や地域の伝統・風習に根ざし、世代を超えて受け継がれている「物語」を、見開きの大きな写真を交えながら紹介。最大の見所となる「絶対行きたい!感じたい!構成文化財5選」を取り上げ、日本遺産にふさわしい魅力をクローズアップ。
読者を「時をつなぐ歴史旅」に誘います。
文化庁日本遺産審査委員会委員
東洋大学国際観光学部客員教授
丁野 朗
「日本を象徴する百の歴史文化物語」。日本遺産を一言で表現すれば、こうなろうか。
個々の文化財だけを見ていては、なかなか判りづらい、歴史の裏側を流れる地域ストーリー。その魅力を表現するのが日本遺産という制度の大きな特色である。
英国の歴史学者アーノルド・J・トインビーの有名な言葉に「歴史を忘れた民族は滅びる」あるいは「理想を失った民族は滅びる」という一節がある。社会が成熟し、ダイナミックな成長が止まった社会では、目先の違いに目を奪われ、未来への志向性が弱くなる。同時に、自らが歩んできた歴史を見失ってしまう。いまの日本もまさにそのような状況なのであろう。
夏の盛りの7月中旬、沖縄県石垣島全島の中学3 年生約390人が集まる会でお話しさせていただく貴重な機会をいただいた。15 歳という年齢は、地域集落から外の世界に飛び出す境目である。この子どもたちに、島の未来、日本の未来をどう伝えればよいのか。琉球という多民族文化の結節点・変電所のような位置にある石垣島は、古くから中国大陸や東アジアを強く意識しながら歴史を刻んできた。文化の普遍性とともに、その固有の歴史を見失うと、自分たちの独自性・アイデンティティーを失ってしまう。
東京大学の故木村尚三郎先生は、ご著書『振り返れば未来』の中で、「自らの未来を拓くヒントは、その歴史の中にある」と喝破された。
日本遺産は、地域の優れた歴史文化物語の再編集を通じた地域ブランディングであり、これらを通じて観光交流や新たな産業創造につなげる有力な手法の一つである。
希望を失いかけた地域が、その歴史を再認識し、未来に向けて自信と誇りを取り戻す、大きなきっかけになってほしいと願っている。