昭和49年司法修習修了、弁護士登録(第二東京弁護士会)。第二東京弁護士会民事介入暴力被害者救済センター運営委員会委員長、山一証券株式会社調査委員会委員、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会委員長、日本相撲協会ガバナンスの整備に関する独立委員会委員、プロ野球暴力団等排除対策協議会顧問弁護士などを歴任。
現在は、日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会幹事、第二東京弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、日本プロゴルフ協会監事など。
有り難いお客様・善良な市民の中には無理難題を執拗にふっかけるクレーマーという有り難くない人々が稀にいます。企業・役所の多くは、彼らからの攻撃に対し、「お客様・市民に違いない以上、失礼な態度や強い主張等できない」と、長時間にわたり対応し続けたり、早期穏便円満解決と称して、不相当で過大な処遇をし続けてきました。「お客様」「市民」である以上は、無碍に失礼な対応をとれないとの、間違ったお客様・市民第一主義・顧客・市民至上主義の呪縛がどこの企業・役所や社員・職員にもあるからです。
が、要求行為の内容又は要求行為の方法(態様)が異常値を示すクレーマーは、有り難いお客様・善良な市民などではありません。事実に基づいた法的クレーム処理案や基準を不満とし、顧客・市民の地位にあぐらをかいて、自分だけの特別待遇を執拗に求め続ける不当要求行為者そのものです。「マスコミや役所・議員に言う、訴えてやる、社長に言う、社長を出せ、誠意を示せ」等々と、威嚇力や暴力を背景に執拗に不当要求・主張をし続けるクレーマーに対し、「通常一般の顧客・市民」に対するように誠心誠意説明し、ご理解ご納得いただこうと努めても、無理で無駄なことです。
クレーマーには、有り難い普通のお客様・善良な市民とは違う特徴がいくつも見受けられます。弁護士は、日々の訴訟活動を通じて、事実認定作業に長けています。企業・役所は、本書で対応方法を身につけるか、弁護士に相談し、クレーマーであるとの診断とその排除の仕方の指導を受け、不当要求の拒否拒絶に積極的に出て、いち早く排除していくことです。特別扱いすることなく、法律要件に則って皆平等な扱い、お客様・市民平等原則がクレーム処理の基本です。この貫徹により、企業や役所は、陥りやすい誤ったお客様・市民第一主義の呪縛から解放され、クレーマーを見抜き、自信を持って排除、排撃ができるのです。
反社会的勢力やクレーマーだけを特別扱いしたことが仮に社会に分かれば、顧客・市民達は自分も同様に扱えと、特別扱いを求めて企業・役所に殺到し、信用を失った企業・役所は、もはや市場・社会に存続し得ない事態になることは、不祥事報道に明らかなとおりです。 行政窓口でも、市民平等原則の貫徹をすることで、企業と同様に、これまで悩まされ続けてきたクレーマー排除は簡単にできますが、ほとんどの役所が手をこまねいていて問題の先送りをしています。
なお、消費者を直接取引相手にしない企業にあっても、得意先の中に、不条理や特別待遇を要求する法人・団体、組織内に巣くっている害虫の職員等が稀にいます。クレーマーを含め、ありとあらゆる反社会的勢力からの不当要求行為も、このような不当要求行為者も、平等、公平、公正の貫徹により、社会から排除しなければなりません。
本書のルーツである『悪魔の呪文「誠意を示せ!」』の初版を上梓して一〇年が経ちました。当時と比べ、暴力団等反社会的勢力の数は明らかに減りました。また、「誠意を示せ」と口にしたり、土下座を強要するクレーマーが随分と減ったとも感じられます。しかしながら、未だに不当要求や不当な主張を平然と執拗に繰り返すクレーマーは、目に見えては減ってはおりません。企業の中には、同書やそのエッセンスを積極的に取り入れて、不当要求行為者のクレーマーは「有り難い顧客」にあらずと、社会の敵として排除をしている企業もありますが、未だにお客様至上主義の呪縛に拘束されたままの企業も多いようです。
行政機関である役所においては、そのほとんどが市民至上主義の呪縛に強く拘束されたままで、拙著の主旨を取り入れてクレーマー認定とその排除が実践されているところはごく僅かでしかなく、誠に残念な限りです。
今回、前作を改題・改訂して発行するにあたり、企業・役所で働くすべての役職員が、クレーマーの不当要求被害に遭い続けないよう、その認定方法や排除方法をズバリ書き込みました。
店主や店員も含めて、今まで以上に、本書をより広く活用しやすいようにとの思いを込めて改訂作業をしましたので、是非ご活用いただけたら幸甚です。
平成三〇年一月
深澤 直之