交通捜査のエッセンスを「127のQ&A」に凝縮!
「捜査の基本」「飲酒運転をめぐる諸問題」「危険運転致死傷罪」「今後に向けての提言等」の4つのパートに分け、初学者にも分かりやすく解説しました。
警察の交通捜査に対する国民の期待は高く、平成29年9月に内閣府が実施した「治安に関する世論調査」によれば、「警察に力を入れて取り締まってほしい犯罪」として「飲酒運転、ひき逃げなどの悪質・危険な交通法令違反」を挙げた人は回答者の43.2%を占め、前回調査(平成24年7月、54.3%)に続く最多にはならなかったものの、引き続き、多くなっています。
しかしながら、このような警察の交通捜査に対する期待の高さゆえか、時として、その捜査に対しては、「なぜ送致までにこんなに時間がかかるのか」、「どうして被疑者が逮捕されないのか」といった疑問や不満の声が聞かれることがあります。
これらの疑問や不満を解消するためには、当然、警察として、更に捜査能力を高めなければならないという部分もありますが、死亡事故に対する警察の捜査に不信感を持っていた御遺族が、警察による再実況見分の様子を目の当たりにして感動したという事案があったように、警察による交通捜査の実態を、正しく国民の皆様に知ってもらう必要があるとも思われます。
こうした折、元警察大学校交通教養部長の那須修氏、元警察庁交通局交通指導課長で元警察大学校交通教養部長の村井紀之氏、警察庁指定広域技能指導官である入尾野良和氏、さらに、元最高検察庁検事の城祐一郎氏の四氏によって「プロ直伝!交通捜査のQ&A」が発刊に至ったことは、誠に時宜を得たものであり、警察庁交通局長として警察職員の捜査能力の向上とともに、交通警察に対する国民の理解の増進を重要な課題とする私としても喜びに堪えません。
本書が広く警友諸君、さらに、交通警察に関心を持つ国民の方々に熟読されることによって、捜査能力の向上と交通警察に対する国民の理解の増進という本書の二つの目的が達成され、そのことが更なる交通安全と国民生活の安全・安心に結び付くことを願ってやみません。
令和3年7月
前警察庁交通局長 北村 博文
交通捜査は、これまで捜査員一人ひとりの仕事に懸ける意気込みによって支えられてきたところが大きいと思います。
例えば、雨の夜のひき逃げ事件で、夜を徹して遺留物を探した後、「もう撤収しよう」という班長に対し、捜査員の一人が何度も更なる捜索を提案していたところ、朝になって雨が上がったことから、再度班員が横一列になって路面を捜索した結果、捜索再開の数十分後に一片の塗膜片が見つかって、被疑車両の特定に役立ったという事案がありました。こうした成果は、まさに捜査員の仕事に懸ける意気込みがなせる業と言っていいでしょう。
ただ、今後の交通捜査を考えると、今までのように捜査員の仕事に懸ける意気込みに頼りっぱなしというわけにはいかないと思われます。
つまり、「働き方改革」が叫ばれる中、徹夜で捜査をした捜査員にはそれに応じた休みを確実に取得してもらうなどして、無理なく働けるようにしなければなりません。
そのためには、誰かが休んだら仕事が回らないというのではいけません。各自が基本的な捜査能力を身に付けた上で、誰がいつ休んでも、代役がカバーできる仕組み作りが重要です。
幹部としては、そのためのマネジメント能力が求められますが、その際には、一人ひとりの捜査員が、捜査員として必要な能力を身に付けられるよう、最適な教材を示しつつ、指導教養をすることが不可欠と思われます。
本書は、「捜査研究」(東京法令出版)に、9回に分けて掲載された村井紀之前警察大学校交通教養部長(司会)、入尾野良和警察庁指定広域技能指導官、城祐一郎最高検察庁検事と元警察大学校交通教養部長である編共著者の4人(肩書はいずれも当時のもの)による座談会を、Q&A形式に編集したものです。いずれも組織としての見解ではなく、個人としての見解ですが、文字どおり交通捜査のプロのエッセンスが凝縮されたものとなっており、交通捜査の幹部の指揮能力、個々の捜査員の能力向上のために最適な内容であると自負しております。また、部外の方が交通捜査を研究するためにも最良の指南書と言うこともできます。
本書が多くの方々に愛読され、交通捜査能力の向上によって国民の安全安心の一助となり、さらには、捜査員のワークライフバランスの基礎となる一人ひとりの捜査員の捜査能力の向上に資することとなれば、編共著者としてこれにすぐる喜びはありません。
令和3年7月
編共著者 那須 修
被害者に対する丁寧な情報提供
適正捜査による被害者支援と社会的正義の実現に向けた警察の責任
現場警察官の被害者支援
逃亡被疑者を許さない!
救護義務のよりよい理解のためのダミー人形等の活用
保険金詐欺事件の検挙と交通警察の存在意義のアピール
幹部として長期未処理事件を防止する能力
交通安全教育の重要性
酒気帯び運転と酒酔い運転の判定
過失運転致死傷アルコール影響発覚免脱罪と飲酒運転周辺者三罪の積極的な適用
実刑による再犯防止
飲酒運転の被疑者の更生等
飲酒運転に係る行政処分の重要性
アルコール類型の初動捜査
2条1号類型としての立件の意義
2条1号を適用できない酒気帯び運転への3条1項の適用
2条1号の適用か3条1項の適用か(危険ドラッグに係る事案)
運転未熟者よりも危険な者に対する法的対応
赤色信号殊更無視類型の更なる立件のために
スクールゾーンへの立入りと危険運転致死傷罪
危険運転致死傷罪全般の適用増に向けて
被疑者取調べ等の在り方
新たな捜査手法等の開発
検察庁との良好な協力関係の構築
交通捜査と事故の抑止活動等
交通捜査の多面的意義
ながら運転の検挙に向けて
自動運転に係る全国的な情報共有の枠組の整備
自動運転時代の捜査手法等
自動運転時代を見据えた交通捜査部門のICT対応・AI(人工知能)対応