本書は、平成19年3月に成立した犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)及び下位法令についての体系的な逐条の解説書である。犯収法の主要部分が平成20年3月1日に施行されてから、警察職員のみならず、金融機関その他各業界の方々から、分かり易い解説はないのかという要望をいただき、また、東京法令出版の植村 大祐氏の強いすすめもあり、コンメンタール形式による解説書を作成する運びとなった。
警察庁組織犯罪対策部において犯収法や下位法令の制定作業に携わった若手職員一同の知見を集約し、その結果を体系化するのに作業を開始してからほぼ一年を要したが、ようやく本書を刊行することができた。作業の中心となったのは、我々2名のほか、作業に協力し、執筆の一部を担当してくれた
近藤 裕行(犯罪収益移転防止管理官付課長補佐)
小野 宏樹(警察大学校刑事教養部教授)
財部 智(犯罪収益移転防止管理官付係長)
井上 健太郎(同右)
砂田 武俊(同右) (順不同)
逐条解説の作成作業は、関係法令の条文の多さや複雑さに加え、他法令の附則等により犯収法関係法令の改正が頻繁になされたことから困難を極めたが、編集方針として、各条文の解釈を提示するに当たっては、国会答弁や、犯収法の前身となる旧金融機関本人確認法や組織的犯罪処罰法第五章の従来からの解釈を踏まえるとともに、法令策定時における基本的な考え方から逸脱することがないように充分に配意した。ただし、いうまでもなく、本書の内容は、警察庁その他いかなる公的機関の見解でもなく、あくまでも最終的な責任は研究会メンバーにあるので、その点についてお断りしたい。
犯収法関係法令は、民商事法の様々な規定を引用しているが、そのほとんどが警察庁以外の各省庁により所管され、その内容も極めて専門性が高い。できる限り所管省庁の職員に問い合わせるなどして正確な記述を心がけたつもりであるが、仮に誤りがあれば遠慮なくご指摘を賜りたい。繰り返しになるが、記述内容の責任はすべて研究会メンバーにある。
本書の編集作業をしている傍ら、平成19年後半から昨年までの間に、我が国のマネー・ローンダリング(マネロン)対策及びテロ資金供与対策の実施状況についてFATF(金融活動作業部会)による第三次対日相互審査が行われ、平成20年10月にはその結果が対日相互審査報告書として公表された。同報告書の中で、我が国はFATF勧告の実施状況が必ずしも十分でない旨様々な指摘を受けており、今後、平成22年秋のフォローアップに向けて政府を挙げてマネロン対策及びテロ資金供与対策の強化を検討していく必要がある。このように、我が国のマネロン対策及びテロ資金供与対策は未だ道半ばであるといえようが、金融機関以外の特定事業者をも広くマネロン規制の対象とすることとされた現在の犯収法関係法令の体系について現時点での整理を行うことは、決して意義のないことではないと考え、今般取りまとめを実施したものである。
犯収法が全面施行されてから、一年が経過し、金融機関等各特定事業者がこれまで以上に不正な資金に対する監視の姿勢を強化するなど、同法の実務運用も定着していると認められる一方、未だに各特定事業者のサービスがマネロン犯罪に悪用されている事件は跡を絶たない。加えて、振り込め詐欺については、近年深刻な社会問題と化しており、官民を挙げた諸対策により一定程度抑止することができたものの、引き続き甚大な被害が発生している。そのような中、少しでも多くの特定事業者の役職員の方々が本書を参考にマネロン対策、犯罪対策を強化し、各事業者の提供するサービスが犯罪組織に悪用されないように必要な措置をとるための一助となれば、編著者としてこの上ない喜びである。
最後に、細かいところまで丁寧に推敲を重ね、時には挫けそうになる編著者を叱咤激励して下さった東京法令出版の植村氏、犯収法の企画立案の中核として活躍され、本書の刊行に当たり、丁寧なご指導をいただいた警察庁長官官房企画官・太刀川 浩一氏、金融関係法令に関して貴重なアドバイスを下さった金融庁総務企画局企画課課長補佐(日本銀行より出向)・森 毅氏に衷心より感謝を申し上げたい。
平成21年3月
編著 | 犯罪収益移転防止制度研究会 |
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代表 |
松林 高樹(警察庁犯罪収益移転防止管理官付課長補佐) 江口 寛章(元・警察庁犯罪収益移転防止管理官付課長補佐) |