「組織は人なりという真実。 警察官の魂ここにあり、と誇らしく 頼もしい気持ちにさせてくれる。」 前長野県知事・元国家公安委員長
村井 仁 氏 |
「変化著しい時代だからこそ 受け継がなければならない真髄。 この本は伝承教育そのものだ。」 長野県警察本部長
小林弘裕 氏 |
いつの頃からであろうか、職場から聞かれなくなった言葉がある。
不本意な人事異動、昇任試験の失敗、上司からの叱責、仕事上の挫折、そして家庭の悩みなど、辛抱の場面に遭遇すると、周囲のみんなが幸せそうで格段と偉く見える。
その昔、そんな落ち込み気分で帰り支度をしていると、上司が私の手に紙包みを握らせながら大声で活を入れてくれた。
「いいか、今夜はやけっぱちになって居酒屋に駆け込むんじゃないぞ。
花を買って、真っすぐに家に帰り、傷んだ心を癒やしてこい。」
そんな上司の視線を背に受けながら職場を後にする。道すがら固く握り潰したしわくちゃの封筒を開いたところ、黒々と万年筆で書かれていたのが、この応援歌である。花代の足しにとの心遣いの千円札も入っていた。
愛憎相半ばする気持ちは露と消え、胸の泉からほとばしる波音が聞こえてきたものだ。今、こんな情景も、泥臭い上司の姿も夢まぼろしのごとくとなり、なんとも心寂しいかぎりである。
どんな組織にあっても、失敗あり成功ありの人間ドラマが展開されている。戦士のほとんどが、万策尽しても、なお成し遂げられない不満足を背負って生きている。
そんな時、上司や先輩から頂いた手紙の末尾には、必ずと言っていいほど、“今が人生の踏ん張りどころ”という趣旨の応援歌がしたためられていた。
たった一行の手紙であっても、どれだけ生々しい現実を生き抜く支えとなったことであろうか。あらためて手紙が取りもつ生きるバネづかい、その不思議さに感心させられる。
今度は自分が手紙を書く番だ。東京法令出版からの依頼を引き受けることにしたのは、そう考えたからである。
本書は、拙筆を省みずに綴った体験談であるが、様々な困難が待ち構える人生を乗り越えていくヒント、逆境に立ち向かう勇気、そして、仕事と人生の厳しさを理解し、共に手を取り合って乗り越える家族の絆を育むことに幾ばくかの寄与をするものとなれば、これに勝る喜びはない。
そして、風化しはじめている人間の情や心の機微を、もう一度取り戻すための一助になれば幸いである。