平成20年12月1日より施行された犯罪被害者の刑事裁判への参加制度もまもなく10年目を迎えようとしています。
参加制度の導入により、刑事司法は大きく様変わりをしました。
それまでは蚊帳の外である傍聴席でしか裁判に関われなかった犯罪被害者が、法廷に出席し、証人や被告人に直接質問をし、事件について意見を述べることが認められたことにより、それまではともすれば儀式としか感じることができなかった法廷に緊張感が生まれ、より真実に近づいた裁判が行われるようになったと実感できるようになりました。
私たち「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」は、犯罪被害者の意思を尊重し、本当に自分たちのために働いてくれる、信頼のできる弁護士がほしいという声の高まりの中で、平成22年1月に結成された、犯罪被害者を支援するための有志による専門弁護士の集団です。私たちはこれまで、被害者参加制度と同時に設けられた被害者参加弁護士として支援を行ってきた経験を基にして、手弁当で被害者支援の専門的研究を進め、その研究の成果を更に事件を通じて実践をするという積み重ねを行ってきました。
その過程の中で、現在の被害者参加制度の運用の実情や法律上の制約から、犯罪被害者が刑事裁判に対して持つ、事実を知りたい、名誉を守りたい、そして適正な刑罰が科せられることで正義を実現したという願いを実現する上での様々な問題があることが浮き彫りとなってきました。
そのため、平成25年4月に、それまでに私たちが経験をしてきた被害者参加事件の中で直面をした問題点を事例に則して紹介をするとともに、それらから共通する、改善が求められる課題を提言としてまとめる形で、本書の初版である「ケーススタディ 被害者参加制度〜被害者に寄り添った活動の実践のために」を出版したのです。
その出版は、犯罪被害者やご遺族の皆さんに大変喜ばれるとともに、被害者支援に関わる弁護士や裁判官、検察官にも高い評価をいただきました。
そこで、初版刊行後に私たちが支援をした事件を新たに追加し、また提言部分をその後の実務の変化に応じて修正したのが本書です。
初版でも書きましたが、本書の中の事例報告の一つひとつは、勇気をもって裁判に参加することを決意した犯罪被害者と、犯罪被害者を支援する弁護士の闘いの結晶であり、これから実際に参加をする犯罪被害者の皆さんやその支援を担当する法律家にとって、極めて有益な資料であると確信しています。
本書が、犯罪被害者の参加制度のさらなる発展のための一助となれば幸いです。
平成29年8月
犯罪被害者支援弁護士フォーラム共同代表 弁護士 杉本 吉史