取調べのレベルアップのきっかけに!!
「立証したい事項は何か」を考え、「どのような発問をすればどのような供述を引き出せるか」を解説しています。
取調官の職人芸だけに頼ることなく、「様々な事案に応用が利く取調べの技術」を身に付けることができます。
本書は,私が「捜査研究」(東京法令出版)の令和元年7月号から令和2年10月号に15回にわたり連載した「録音録画時代の取調べの技術」を基に,必要な修正や加筆をしたものである。
なるべく連載の内容をそのままの形で維持しつつ,書籍として,より充実した内容とするため,連載した15講に個人的な意見等をコラムの形で加えたほか,新たに実践編として連載にない2つの補講を加えるなどした。
令和元年6月1日に取調べの録音録画の一部義務化を規定した改正刑事訴訟法が施行されたことから,それに合わせ,連載では,なるべく具体的に,録音録画時代の取調べとはどうあるべきかを私なりに検討し,お示しした。
実際の事件の取調べを参考にした設例を用いて,関係者の供述や証拠関係を踏まえた具体的な「問い」の内容を検討している点が,これまでの他書等には見られない新鮮な点ではないかと思う。
本文にも述べているが,あくまでも現時点での私見であり,批判的に検討していただければ幸いである。
ところで,「録音録画時代の取調べの技術」は,「録音録画時代」を録音録画が義務化されていなかった時代と比べて消極的に捉え,その中でどう最善を尽くすかを検討したものではないことは強調しておきたい。
取調べは,録音録画があろうとなかろうと,関係者から真実を聞き出すための重要な捜査である。
その重要性は,「録音録画時代」においても,それ以前と比べいささかも減少するものではないし,その意義も,「録音録画」によっていささかも失われないと確信している。
私が本書で検討したかったのは,「録音録画時代」において,どのように関係者から真実を聞き出すかという「技術」である。
そして,本書を通じて主張していることは,本来の取調べとは,「録音録画時代の取調べの技術」として本書で検討したような「録音録画時代」のあるべき取調べと同じだということである。
したがって,本書は,「録音録画時代の取調べの技術」という題名にしているが,検討している内容は,「録音録画」の実施の有無にかかわらない点で,本来,「取調べの技術」とでも名付けるべきものである(実際にも,本書で検討している設例のほとんどは録音録画の義務化の対象ではない。)。
仮に,従前,「録音録画時代の取調べ」としては巧くない,又は不適切な取調べをしていたとすれば,それは,「取調べの技術」が未熟だったものが単に「録音録画」によって露呈することになったにすぎない。
本書執筆に当たり,あるべき取調べの形を言語化する中で,自戒を込めてそう思わずにはいられなかった。
今後も,執務を通じて,「録音録画時代の取調べの技術」を磨いていきたいと思っている。
令和3年8月
山田 昌広